2011年7月30日

「新型インフルエンザ(A/H1N1)-わが国における対応と今後の課題」が出版されます!


宮村達男監修,和田耕治編集.新型インフルエンザ(A/H1N1)-わが国における対応と今後の課題-
中央法規.2011年8月中旬頃書店に並びます 2009年、パンデミックの全記録! 6400円+税金
全367ページとCD付きです。また書店に並びましたらご報告します。

 

2011年7月11日

東日本大震災の津波による海からの堆積物(ヘドロ)における微生物分析調査

東日本大震災に伴って発生した津波により海から様々な堆積物が運ばれた。これらの堆積物に病原性を持つ細菌が含まれている可能性が示唆されており、フィットテスト研究会では産業医大微生物解析研究開発有限責任事業組合に依頼し、サンプリングならびに細菌の解析を依頼した。以下にその結果について報告する。

 2011619日に、宮城県七ヶ浜町と、宮城県多賀城市浮島矢中中央公園にてそれぞれ3カ所(泥または湿土、乾燥土、水)、計6カ所のサンプリングを採取した。採取したサンプルは蛍光染色法、好気培養法(環境細菌用培地)、菌体破壊率、DNAの抽出を行った後に、遺伝子工学的に細菌叢解析を行った。さらに、シゲラ、サルモネラ、大腸菌検出用のSSB培地、コレラ菌検出用TCBS培地、レジオネラ検出用WYO培地による培養検査も行った。

遺伝子工学的な細菌叢解析結果からは、病原菌と考えられるものが菌叢を優占している状況ではないことが分った。コレラ菌検出用TCBS培地から、宮城県仙台市野山の畑に堆積した泥よりVibrio cholera Non-01Non-O139と、Vibrio fluvialis104/mlが検出された。これらは、津波によって海から運ばれた可能性がある

Vibrio cholera Non-01Non-O139:一般的にコレラと呼ばれるO1型、O139型コレラとは異なる01コレラ菌(NAGビブリオ)で、環境中、特に海水と淡水の混じり合う河口付近などに生息し、食品から見いだされることもある。集団の食中毒の原因となりうるが、ヒトからヒトへの伝染はない。食中毒の原因菌である(食品衛生法)。詳細については、国立感染症研究所.NAGビブリオ感染症(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_12/k01_12.html)を参照いただきたい。

Vibrio fluvialis:食中毒の原因菌である(食品衛生法)。散発的あるいは集団食中毒の原因菌として知られ、水様性の下痢に加え、腹痛、嘔吐などを高頻度に伴う。とくに粘液や血液便をきたすこともある。詳細については、国立感染症研究所.ビブリオ・フルビアリス/ファーニシ感染症.http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_09/k01_9.html)を参照いただきたい。

今回実施した調査では、港湾や河口などに認められうる微生物が、津波由来の堆積物から検出されたが、とりわけ病原性が高い病原体や感染力の強い病原体は検出されなかった。

 このことより、ヘドロの処理に関わる方々はもちろんのこと、海からの堆積物のある場所で住む一般の方にもそのほかの感染症対策も含めて外出後や食事前の手洗い等の衛生習慣を行うことが、感染症予防に役立つと考えられる。ヘドロや堆積物について過剰に怖れる必要はないが、気温の上昇とともに微生物が増殖したり、悪臭を放つなどの問題もあるため、可能なかぎり早期に生活環境の場所から撤去・除去されることが望ましい。

 今回は2カ所における合計6カ所のサンプリングの結果でありそのほかの場所について今後必要に応じて評価が必要である。
 

以上

本調査に関する問い合わせ

和田耕治

北里大学医学部 公衆衛生学 講師

〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 

Tel: 042-778-9352




参考文献



国立感染症研究所.NAGビブリオ感染症

http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_12/k01_12.html

国立感染症研究所.ビブリオ・フルビアリス/ファーニシ感染症.

http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_09/k01_9.html