2011年4月24日

南三陸・気仙沼地区、大気中粉じん・アスベスト濃度測定結果

南三陸・気仙沼地区、大気中粉じん・アスベスト濃度測定結果

平成23420
吉川徹1、和田耕治1、外山尚紀2
1フィットテスト研究会、2東京労働安全衛生センター

0.要約
1.大気中の浮遊石綿線維(アスベスト)の濃度測定を、宮城県本吉郡南三陸町志津川地区(2011/4/105か所所)、宮城県気仙沼市市街地区(2011/4/112か所)で実施した。
2.気仙沼市本郷交差点でアスベストの浮遊が確認(0.42/L)された。南三陸町志津川地区では浮遊アスベストは確認されなかった。
3.2011410日現在、今回調査を行った地域では石綿線維が大量に市中に飛散している状態ではないと確認できた。しかし、調査を行った地区ではアスベストを含む可能性のある建材等が瓦礫として散乱している状況が確認され、今後、重機などを使った瓦礫除去作業等が本格化すると、粉じんが発生する作業が増加し、気中石綿濃度が上昇する可能性がある。
4.今回、気仙沼地区で確認された浮遊石綿線維は、吹付け材などの建材から飛散したものである可能性が高く、瓦礫除去作業等に従事する作業者への粉じん予防策、粉じんが発生する場所に近づく住民(含む子供)や被災地支援ボラインティアなどに対して、適切な粉じん予防対策を周知、徹底することが重要である。
5.今回の調査結果から、継続的な環境評価が必要であることも指摘できる。官民で連携をとりながら粉じん・アスベストによる健康被害を最小限にする取り組みが必要である。

1.目的
  地震等により建造物が破壊されるなどの被災地においては、相当量の粉じんや石綿線維(アスベスト)が飛散し労働者や住民の健康に悪影響を生じることが指摘されている[1][2]
  2011311日に発生した東北地域太平洋沖地震により、東日本の沿岸部を中心に地震とその後に発生した津波による建造物破壊等の甚大な被害が発生したことから、当該被災地において復旧・復興作業における短期的・長期的な粉じん・アスベストばく露リスクを評価し、適切な対応を検討することが必要である。
  そこで、東北地域太平洋沖地震および津波により被災した地域で大気中粉じん、浮遊石綿線維(アスベスト)濃度を測定、評価した。また、被災地域において損壊した建造物や瓦礫等にアスベスト含有製品が含まれるか目視で調査を行った。これらの結果に基づき、復旧・復興作業に関わる労働者や被災地域の住民、また復興支援にあたるボランティア等への粉じんばく露、アスベストばく露リスクの低減のため、現状と今後の課題を整理した。

2.方法
 本調査研究では、(1)大気中粉じん・浮遊石綿線維濃度測定、(2)目視による被災地の実施調査、(3)それらの結果を踏まえた検討を行った。
(1)大気中粉じん・アスベスト濃度測定(南三陸町、気仙沼)
  測定日時:平成23410日(日)晴れ、411日(月)曇り
  測定場所:宮城県本吉郡南三陸町志津川地区、宮城県気仙沼市市内
           ※添付資料1にサンプリング場所を示した。
  測定機器:エアサンプラー 柴田科学 ミニポンプMP-Σ500、測定条件は表1,2に記載
  分析方法:アスベスト顕鏡は位相差偏光顕微鏡 オリンパス BX-51
(2)実地調査
・南三陸町、気仙沼の被災地を訪問し、瓦礫等を調査し、アスベスト含有している可能性のある建材や断熱材(ボイラー及び加熱容器、セメントパイプ、電線用線渠、パイプ被覆、屋根材、ダクト及び家屋の断熱材、耐火板、炉の断熱パッド、床タイルや床シートの下敷き等)があるかどうか目視で確認した。

3.結果および考察
(1)大気中粉じん濃度測定(南三陸町)、アスベスト濃度測定結果(南三陸町、気仙沼)
 南三陸では5点石綿濃度測定、4点粉じん濃度測定行った。気仙沼では2点石綿濃度測定行った。表1に示す通り、南三陸5点と気仙沼の1点については100視野観察で石綿繊維は全く観察されなかったが、気仙沼の本郷交差点では石綿繊維5本が観察された(表1)。
図1 位相差顕微鏡画像(サンプリング試料、気仙沼市本郷交差点)
 気仙沼市内本郷交差点付近でサンプリングされた試料からは、写真(図1)のように5本の繊維は1カ所に固まっている状態の鉱物性線維が確認された。別々の繊維が偶然このように重なったとは考えにくく、この状態に近い形で浮遊していたと考えられる。吹付け材などの建材から飛散したものである可能性が高い。吹付け石綿除去の現場でよく観られる繊維の重なりの構造のものである。位相差顕微鏡観察では、これらの繊維は全て消光角は直消光が明白であるため、また繊維の形状から角閃石石綿であると考えられる。伸長はかすかに正、多色性は確認不能、形状からアモサイトの可能性が高いと思われるが、明確ではない。
 以上から、高濃度ではないが、気仙沼では石綿繊維が飛散していることを示唆する結果といえる。調査を強化して継続する必要がある。
 表2には、大気中粉じん測定結果を示した。サンプリングを行った日は日曜日で、瓦礫撤去作業は市中では海岸部で行われているのみで、また、交通量も志津川病院付近での幹線道路で30分に20台程度通貨する状況でのデータである。

(2)実地調査
 2011410日午後、南三陸町、411日(日)午前に気仙沼、本郷交差点周辺市街および311日~12日に火災に見舞われた鹿折地区実地で、瓦礫等に含まれる目視による調査を行った。特に、アスベスト含有している可能性のある建材や断熱材(ボイラー及び加熱容器、セメントパイプ、電線用線渠、パイプ被覆、屋根材、ダクト及び家屋の断熱材、耐火板、炉の断熱パッド、床タイルや床シートの下敷き等)がないか実地調査を行った。図2は南三陸町志津川地区における調査の様子である。図3瓦礫のなかに含まれていた波型スレート、アスベスト含有建材、図4は吹付ロックウールである。2011411日に図4に示した吹付ロックウールを偏光差顕微鏡で確認したところ、石綿線維は確認されなかった。
図2 瓦礫の目視よる評価、環境測定の様子
図3 確認された波型スレート、アスベスト建材
図4 吹付ロックウール、アスベストはなし

(3)提言の修正
 2011319日にフィットテスト研究会が作成した「復旧作業や片付けを行う人が知っておきたいほこり・アスベストに関する7つのポイントと防じんマスクの正しい着用法URL: http://square.umin.ac.jp/ohhcw/pdf_hint3.pdf)」を、今回の知見にもとづいて改訂を行った。



4.まとめ
  大気中の浮遊石綿線維(アスベスト)の濃度測定を、宮城県本吉郡南三陸町志津川地区(2011/4/105か所所)、宮城県気仙沼市市街地区(2011/4/112か所)で実施した。
  気仙沼市本郷交差点でアスベストの浮遊が確認(0.42/L)された。南三陸町志津川地区では浮遊アスベストは確認されなかった。
  2011410日現在、今回調査を行った地域では石綿線維が大量に市中に飛散している状態ではないと確認できた。しかし、調査を行った地区ではアスベストを含む可能性のある建材等が瓦礫として散乱している状況が確認され、今後、重機などを使った瓦礫除去作業等が本格化すると、粉じんが発生する作業が増加し、気中石綿濃度が上昇する可能性がある。
  今回、気仙沼地区で確認された浮遊石綿線維は、吹付け材などの建材から飛散したものである可能性が高く、瓦礫除去作業等に従事する作業者への粉じん予防策、粉じんが発生する場所に近づく住民(含む子供)や被災地支援ボラインティアなどに対して、適切な粉じん予防対策を周知、徹底することが重要である。
  今回の調査結果から、継続的な環境評価が必要であることも指摘できる。官民で連携をとりながら粉じん・アスベストによる健康被害を最小限にする取り組みが必要である。

5.調査結果を受けての今後の提案
  今後、被災地域に多数の測定点を設置して正確な濃度測定を実施することが必要である。4月中旬より環境省などが環境評価を行っており、測定結果などもとに発表される今後の対策にも注視する必要がある。
  現時点の対策としては、基本的には、重機などを使った瓦礫除去作業の近くなど粉じんが発生している場所にはできる限り近づかない、瓦礫除去作業に常時従事する方は防じんマスクの着用を徹底する、など様々なルートを使って指摘と助言が重要である。厚労省・環境省等の行政機関も被災地における粉じん・アスベスト対策の強化に向けて取り組みを進めており、例えば事業者に対しては労働基準監督署などの行政機関を通じた情報周知・指導、地域住民、ボランティア等へは環境省、被災地域の公衆衛生に関連した活動する医師・保健師などの医療スタッフや、全国自治体からの支援者等へは、それぞれのルートから、産業安全保健専門家による適切な助言が必要と考えられる。
  建物等にアスベストが確認された場合には、専門の業者による除去作業が必要になる。また、吹付け建材が発見された場合には、その場所をマッピングした地図などを作成し、復興作業に従事する活動も必要である。
  今後、防じんマスクの適切な使用法に関するトレーニングの開催なども官民共同して進めてゆく必要がある。

本公開情報に関する意見、質問、問い合わせ先
フィットテスト研究会 吉川徹(財団法人労働科学研究所)、和田耕治(北里大学)
        研究会事務局 財団法人 労働科学研究所 内 担当稲垣
             
216-8501 神奈川県川崎市宮前区菅生2-8-14
              代表電話: 044-977-2121  FAX: 044-977-7504
        電子メールアドレス: ohhcw05@yahoo.co.jp

関連資料:
(1)復旧作業や片付けを行う人が知っておきたいほこり・アスベストに関する7つのポイントと防じんマスクの正しい着用法(フィットテスト研究会、414日改訂版)
  「津波・地震において自分、家族、同僚、地域の健康を守るヒント集」の
      ページからリンクありURL: http://square.umin.ac.jp/ohhcw/
(2)厚労省:アスベスト(石綿)情報
(3)環境省:災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル(PDF:2.5MB、環境省 水・大気環境局大気環境課)



表1 大気中石綿濃度測定の実績と結果
no.
測定日
地域
試験
測定点
概要
測定
時刻
吸引量
(L)
採じん
φ
(mm)
観察
視野
観察
繊維
繊維
濃度
(f/L)
観察
石綿
繊維
石綿
濃度
(f/L)
定量
下限
(f/L)

1
2011/4/10
1
天王前
河原
12:45
-14:33
538.6
22
100
2
0.20
0
0.00
0.264
石綿繊維観察されず
2
2011/4/10
1
汐見町1
路上
13:13
-14:40
420
22
100
2
0.26
0
0.00
0.339
石綿繊維観察されず
3
2011/4/10
1
志津川1
路上
14:50
-16:22
455.4
22
200
1
0.06
0
0.00
0.156
石綿繊維観察されず
4
2011/4/10
1
志津川2
路上
15:15
-16:20
310
22
100
1
0.17
0
0.00
0.459
石綿繊維観察されず
5
2011/4/10
1
汐見町2
路上
13:30
-15:40
638.7
22
100
2
0.17
0
0.00
0.223
石綿繊維観察されず
6
2011/4/11
2
気仙沼
市立病院前
路上
11:24
-13:55
737.6
22
100
1
0.07
0
0.00
0.193
石綿繊維観察されず
7
2011/4/11
2
本郷交差点
路上
11:50
-13:57
635
22
100
8
0.68
5
0.42
0.224
角閃石と思われる石綿繊維が5本重なった状態で観察された。
※地域1:南三陸町(志津川地区)、地域2:気仙沼市

表2 大気中粉じん測定結果
no.
測定日
地域

試験
測定点と
概要
測定時刻
粉じん
測定
時間(分)
吸入性
粉じん
濃度
粉じん
濃度
温度、湿度、風速、風向き
1
2011/4/10
1

天王前
河原
12:45-14:33
108
0.26
0.39
18.0 37% 3.5-4.8m/s E
2
2011/4/10
1

汐見町1
路上
13:13-14:55
102
0.05
0.44
18.0 44% 0.5-1.0m/s ESE
3
2011/4/10
1

志津川1
路上
14:50-16:20
93
0.09
0.41
17.5 47% 0.4-2.9m/s E
4
2011/4/10
1

志津川2
路上
15:15-16:20
62
0.09
0.34
17.5 50% 0.1-1.0m/s E
5
2011/4/10
1

汐見町2
路上
13:30-15:40
実施せず
-
-
18 36.5% 3.5-4.8m/s E
6
2011/4/11
2

気仙沼市立病院前
路上
11:24-13:50
実施せず
-
-

7
2011/4/11
2

本郷交差点
路上
11:50-13:57
実施せず
-
-

  地域1:南三陸町(志津川地区)、地域2:気仙沼市


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