2011年4月19日

東日本大震災の復旧・復興に求められる働く人の健康を守る産業保健活動


和田耕治(北里大学医学部公衆衛生学講師)


 東日本大震災の復旧・復興に関わる方々は様々な危険有害要因にさらされる可能性があり産業保健の観点からの対応が求められる。
 災害の初期には、自衛隊や消防隊などある程度訓練を受けた人が対応にあたるが、今後被災者自身が片付けなどを行ったり、またボランティア、民間の業者の労働者などの関わりが増す。こうした人々を危険有害要因から組織的に守り、二次災害を予防する必要がある。
 危険有害要因としては次のようなものが挙げられる。
 1.生物学的要因
 感染症対策としては、公衆衛生では避難所での感染対策(胃腸炎、インフルエンザなど)が主と考えられがちであるが、その他に被災地においては、がれきに含まれるレジオネラ、作業によって山林などに入ることによるツツガムシ病、そしてけがによる破傷風といった感染症から労働者やボランティアを守る必要がある。
 2.化学的要因
 様々な化学物質が津波によって流されて被災地に拡散しており、これらの曝露から労働者やボランティアを守る必要がある。また、がれきの片付けによって発生する粉じんや、アスベストは阪神・淡路大震災やワールドトレードセンターのテロでも課題となっており喫緊の課題である。
 3.物理的要因
 原発事故による放射線への対応、そして、これまでは寒さ対策であったが、今後は暑さ対策が必要である。さらに、腰痛など筋骨格系の予防や、けがの予防が必要である。
 4.心理社会的要因
 作業者の疲労や過重労働、過酷な労働環境、そして被災者のストレスを受け止めることによるストレスなどへの対応が求められる。
 5.健康管理
 作業者としての派遣やボランティアとして参加にあたっては十分な健康が保持されているかを確認し、持病などがある場合には配慮をする必要がある。
 これらの要因に対してすでに様々な災害や産業現場での教訓や経験が産業保健には蓄積されており、今こそ実践に移す時である。
 しかしながら、様々な課題があるが2つの課題を強調する。
 1つ目の課題として、産業保健の知識と実践をどのように現場に反映させるかである。ボランティア組織や、民間業者などは数多くあり、それらのすべての情報を流し、さらにすべての人に実践していただくことは容易ではない。インターネットなどの活用はその解決の糸口にはなりうる。しかし、情報の入手を容易にし、かつ分かりやすくした情報を豊富に、そして様々なチャネルで産業保健の専門家や行政が流すことが求められる。また、行政や業界団体などが労働者の健康を守る産業保健の視点を常に意識するための仕組みが必要である。
 2つ目の課題としては、「リスクに応じた対策」ということが現場では容易ではないことである。人は一般的に「小さなリスクは大きく感じ、大きなリスクは小さく感じる」傾向がある。放射線でも、粉じん対策でもリスクに応じたバランスの良い対策が必要であるが、実際に現場での具体的な対策に関する判断には「応用」が必要であり、また過剰な対策を予防するには専門家の関与が必要となる。こうしたことからもリスクに応じた対策の具体例を多く提供しつつ、産業保健の専門家ができるだけ関わることが課題の解決になると考えている。
 産業保健の視点は復旧・復興になくてはならないものであり、我々産業保健の専門家への期待は大きく、それに応えなければならない。また、経験したことのない新たな課題に対しては協力して解決をしていかなければならない。

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