東日本大震災に伴って発生した津波により海から様々な堆積物が運ばれた。これらの堆積物に病原性を持つ細菌が含まれている可能性が示唆されており、フィットテスト研究会では産業医大微生物解析研究開発有限責任事業組合に依頼し、サンプリングならびに細菌の解析を依頼した。以下にその結果について報告する。
2011年6月19日に、宮城県七ヶ浜町と、宮城県多賀城市浮島矢中中央公園にてそれぞれ3カ所(泥または湿土、乾燥土、水)、計6カ所のサンプリングを採取した。採取したサンプルは蛍光染色法、好気培養法(環境細菌用培地)、菌体破壊率、DNAの抽出を行った後に、遺伝子工学的に細菌叢解析を行った。さらに、シゲラ、サルモネラ、大腸菌検出用のSSB培地、コレラ菌検出用TCBS培地、レジオネラ検出用WYO培地による培養検査も行った。
遺伝子工学的な細菌叢解析結果からは、病原菌と考えられるものが菌叢を優占している状況ではないことが分った。コレラ菌検出用TCBS培地から、宮城県仙台市野山の畑に堆積した泥よりVibrio cholera Non-01、Non-O139と、Vibrio fluvialisが104/mlが検出された。これらは、津波によって海から運ばれた可能性がある
今回実施した調査では、港湾や河口などに認められうる微生物が、津波由来の堆積物から検出されたが、とりわけ病原性が高い病原体や感染力の強い病原体は検出されなかった。
このことより、ヘドロの処理に関わる方々はもちろんのこと、海からの堆積物のある場所で住む一般の方にもそのほかの感染症対策も含めて外出後や食事前の手洗い等の衛生習慣を行うことが、感染症予防に役立つと考えられる。ヘドロや堆積物について過剰に怖れる必要はないが、気温の上昇とともに微生物が増殖したり、悪臭を放つなどの問題もあるため、可能なかぎり早期に生活環境の場所から撤去・除去されることが望ましい。
今回は2カ所における合計6カ所のサンプリングの結果でありそのほかの場所について今後必要に応じて評価が必要である。
以上
和田耕治
北里大学医学部 公衆衛生学 講師
〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
Tel: 042-778-9352
参考文献
国立感染症研究所.NAGビブリオ感染症
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_12/k01_12.html
国立感染症研究所.ビブリオ・フルビアリス/ファーニシ感染症.
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_09/k01_9.html