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2011年3月26日

避難所の感染対策 ~ウイルス性胃腸炎編

 避難所のウイルス性胃腸炎で、とくに問題になるのは、ノロウイルスとロタウイルスではないかと思います。双方とも、ヒトへの感染力が強いために、しばしばアウトブレイクを引き起こします。すでに、一部の避難所ではウイルス性胃腸炎の流行がみられるとの情報もあり、今後、対策が急がれることになるかもしれません。

 避難所という集団生活の場において、こうしたウイルス性胃腸炎が流行した場合に、どのような感染対策を行えばよいのでしょうか? 院内感染対策を行ってきた医師の立場、そして新潟県中越地震の被災地支援に関わった立場から、ノロウイルスを中心にして考えてみたいと思います。

 なお、ロタウイルスへの対策もノロウイルスと同様だと考えていただいて結構です。異なる点は、ロタウイルスでは大人の症状は一般に軽いということ、一方、乳児では重症となりやすく、下痢が1週間近く続くこともあります。ですから、ロタウイルスの場合は、より乳児を重点的に守ることになります。

■  ノロウイルス胃腸炎の症状

 突発的な激しい吐気や嘔吐、下痢、腹痛を認めます。やがて寒気とともに38℃台の発熱を認めることもあります。こうした症状は1日か2日で軽快し、後遺症を残すこともありませんが、高齢者や乳幼児では、脱水がすすんで多臓器不全を来たしたり、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息したりすることがあるので注意が必要です。また、高齢者では誤嚥性肺炎を続発することがあるので、下痢がおさまってからも見守りが必要です。つまり、健康な人にとっては、水分を摂取しながら安静にしていれば乗り越えられる病気とも言えますが、災害により体力の低下した弱者にとっては、いのちに関わる感染症となりかねません。

■ 避難所でできる下痢症の治療

 大部分の下痢症患者にとって、必要な治療とは「適切に水分を補給すること」だけです。大人であれば、ポカリスエットなど刺激のないジュースやお茶を飲み、ときどき塩分としてみそ汁や野菜スープなどを飲みましょう。子供(とくに5歳未満児)には「ORS(経口補水塩)」が理想的です。やはりスープなどによる塩分補給も大切です。母乳栄養児には母乳をそのままあげてください。

【ヒント】避難所で作るORS(経口補水塩)
 500mlのペットボトルを準備します。これに塩を小さじ1/4杯と砂糖小さじ3杯を入れて飲料水で満たします(正確である必要はありません)。もし、オレンジジュースがあれば100ml分を水の代わりに入れましょう。飲みやすくなり、下痢で失われがちなカリウムの補充にもなります。

 嘔吐しているからといって、水分を与えるのを諦めてはいけません。少量ずつでもよいので飲ませましょう。脱水もまた嘔吐の原因なので、適切な水分補充ができれば吐かなくなります。

 吐かずに水分が飲めるようになり、食欲が戻ってきたら、食事を徐々に再開しましょう。少しだけ塩を加えたお粥、バナナ、バターを控えたトーストなどが食べやすいようです。

 市販の下痢止め薬は、とくに子供には使わないようにしましょう。大人も避けるべきですが、頻回の下痢で眠れない、避難所のトイレが使いにくいといった事情があるのなら、夜間に限って下痢止め薬を使用することは妨げません。

 一方、市販の吐気止め薬は、添付文書に書かれている用法用量を守って使用することができます。ただ、やはり子供にはなるべく使わない方が安心です。

 本稿では重症者に対する医学的な対応については述べません。嘔吐や下痢とともに意識が朦朧としている、眠ってばかりいる、ぐったりしている、息苦しそうにしている、半日以上おしっこが出ていない、といった症状を認めた場合には、避難所での療養継続は危険かもしれません。必ず医療機関を受診させるようにし、医師の指導に従ってください。

■ ノロウイルスの感染経路

 ノロウイルスは感染している人の腸内で増殖し、その吐物や便を介して感染伝播します。具体的には、感染している人が調理した食品を食べることによる伝播(食中毒)と、感染している人の吐物や便を直接触れてしまうことによる伝播(接触感染)と、吐物や便が乾燥して飛散することによる伝播(空気感染)とに大別されます。ですから、食品の安全を確保することと、症状がある方の便や吐物を確実に処理することが感染拡大防止の目標となります。

 残念ながらエタノールではノロウイルスを消毒することはできません。次亜塩素酸ナトリウム溶液(作り方のヒントを後述)が有効ですが、手指の消毒を含め人体には使えません。よって、ウイルスの除去は流水による手洗いが原則となります。

■  ノロウイルスの感染対策

 では、具体的な感染対策のポイントを整理してゆきます。もちろん、すべての対応をすることは困難だと思います。避難所ごとに状況は異なるでしょうから、現場で判断していただくしかありません。以下を参考として、できることがあれば取り組んでいただければと思います。

1)    食中毒を予防する

○  下痢や嘔気のある方、発熱している方は、避難所における食品の配布や調理に関わらないようにする。漠然と「下痢をしている人は申し出てください」ではなく、食品を取り扱う前に下痢をしていないか、発熱していないか、ひとりひとりに確認するのが望ましい。
○  食品を扱う人は、なるべく石けんを使用し、十分な手洗いをしてから作業に入ること。また、作業の途中にトイレに行った場合にも、必ず手洗いをしてから再開すること。
○  生鮮食品(野菜、果物など)は十分に洗浄し、食材はなるべく加熱調理(85℃以上で少なくとも1分間)する。
○  調理器具、容器は清潔に保つこと。とくに下痢症が流行しているときは、食器の使いまわしは避ける。

2)有症者用トイレを管理する

○  屋内の女性用トイレなどを、性別によらず有症者用のトイレとして限定し、他の人が使用しないように隔離する。
○  流水と石鹸による手洗いを徹底。小便、食事前の手洗い、歯磨きなども、この隔離された有症者用トイレに限定する。嘔吐するのも(可能な限り)このトイレ内でと呼びかける。
○  このトイレは徹底して水洗いによる清掃を続ける(1日2回以上)。ドアノブ、蛇口など直接手が触れる可能性のある場所については、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)を600ppmに薄めた溶液をペーパータオルなどに染み込ませて清拭する。
○  乾燥した便や吐物が飛散しないよう、なるべく湿潤な環境とし、とくに床面を乾燥させない。
○  トイレのドアはなるべく閉めておく。外側の窓は空けてもよいが、空気が屋内に流れている場合には閉めた方がよい。

【ヒント】 600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液の作り方、使い方
 500mlのペットボトルを準備します。ペットボトルのふた1杯(5ml)のハイター(次亜塩素酸ナトリウム6%)をペットボトルにいれて、残りを水で満たしたら600ppmとなります。この溶液を扱うときは、できるだけ手袋をしてください。もし、溶液が手に直接ついてしまった場合には、流水でよく洗ってください。

3)適切に吐物を処理する

○  吐物を認めたら、乾燥する前になるべく早く処理をすること。
○  処理をはじめる前に、処理にあたる人以外の方を遠ざける(3メートル以上)。
○  処理にあたる人は、できるだけ手袋・マスクを着用する。
○  吐物のなかのウイルスを飛ばさないように注意しながら、ペーパータオルなどで静かに拭きとる。
○  吐物で汚染された場所を、600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液でひたすように拭き、その後、水拭きする。
○  使ったぺーパータオルなどはビニール袋に入れ、しっかり閉める。ビニール袋のなかに、廃棄物全体が湿るぐらいに600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液をかけておく。
○  作業が終わったら、流水と石鹸による手洗いをしっかり行う。
○  可能であれば、この作業は、4)で述べる免疫のある方が行う。

4)適切に汚染された衣類を洗う

○  便や吐物で汚れた衣類は大きな感染源となるので、他の衣類と一緒に洗わないこと。
○  洗う人は、できるだけ手袋・マスクを着用する。
○  バケツなどで、汚れた衣類を水洗いし、更に600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液を半分程度に薄めてように注いで消毒する(ただし色落ちします)。
○  この作業は上述の有症者用のトイレで行うことが望ましい。
○  可能であれば、この作業は、4)で述べる免疫のある方が行う。

5)免疫のある方を活用する

○  下痢など急性胃腸炎を発症し、すでに症状が改善している方は、基礎疾患がある方を除きノロウイルスに免疫があると考えることができる(少なくとも2ヶ月は持続)。
○  避難所の衛生管理における貴重な人的資源であり、有症状者へのケア、トイレを含む避難所内の清掃、リネン類やゴミの取り扱いなどに積極的に協力していただく。
○  下痢がおさまってからも、便中のウイルス排泄は長期に(1週間以上)続くこともあり、流水での手洗いは徹底させる。トイレも有症者用トイレを使用すること。
○  少なくとも症状消失後2週間(できれば1ヶ月)は、避難所の食品の配布や調理に関わらないこと。

6)症状のある方とない方の接触機会を減らす

○  下痢や嘔気などの症状がある方は、どんなに症状が軽くとも、避難所内を歩き回らないように心がける。とくに、テレビのリモコン、ライトのスイッチ、ドアノブ、掲示物などの共有物を触らないようにする。
○  症状のない方は、屋内の男子用トイレや屋外の仮設トイレなど、その他のトイレを使用し、前述の有症者用トイレを使用しないようにする。
○  症状のない方も、症状のある方と同様に、避難所内を不必要に歩き回らないようにする。また、テレビのリモコン、ライトのスイッチ、ドアノブ、掲示物などの共有物を触った場合には、できるだけ流水で手を洗う。
○  症状のある方と会話をしたぐらいでは感染しないので、過剰に排除しないようにする。

■  おわりに

 以上、避難所における感染対策について、比較的厳格な考え方で解説しました。

 さらなる感染対策を試みるならば、上述の有症者用トイレに近いエリアを「有症者世帯エリア」として空間隔離するという方法もあります。つまり、症状のある方のいる世帯を集合させ、それ以外の世帯と分離するということです。避難所内でモザイク状に有症者が寝起きしているよりは、感染拡大の速度を遅くできるかもしれません。

 しかし、感染症医の立場から正直に申し上げると、あらゆる厳格な対策を試みたとしても、拡大の速度は遅くなるにせよ、一緒に寝起きしている限り感染を確実に回避することは困難だと思います。限られた(空間的、物質的)資源を浪費するよりは、乳児など感染させたくないハイリスク者を避難所外へ移動させることを考えた方がよいかもしれません。

 有症者を分けるという感染対策が避難所の団結を阻害したり、有症者を出した世帯に対する偏見を招来することがないよう、避難所の担当者の方は注意してください。避難所において、対策と称して有症者を分離し、そして恐れ、支援の手が疎かになるとすれば、それは明らかな対策の失敗です。ここに書いた私の本意でもありません。

 怒涛の勢いで侵攻してくる病原体を前にして、人間様がバラバラでは勝ち目はありませんよね。団結とは、感染対策における最優先事項でもあるのです。ウイルス性胃腸炎への感染対策は、平時の医療機関においてすら困難なものです。現場の方々は、ほんとうにご苦労されていると思います。ここで私が書いたことが少しでも参考となるとすれば幸いです。

高山義浩(沖縄県立中部病院)

2011年3月21日

避難所生活改善のために知っておきたい10のポイント~阪神・淡路大震災の教訓より~


1995年の阪神・淡路大震災の報告書より、避難所生活を改善するための教訓を整理しました。

1.仮設住宅や避難所を自らの手で守るための組織を作ります
仮設住宅や避難所における衛生対策や、高齢者、こども達、妊婦のサポートなどを行う組織を住民が主体となって作ります。こうした組織が自然発生的にできない場合も多く、また組織がないと様々な点について課題が生じます。支援に入った団体は、地元自治体の応援も得ながら住民が主体的な組織作りができるように協力します。また仮設住宅や避難などで組織が崩れることがあるので組織の状況を定期的に確認します。

2.トイレの衛生状態を定期的にチェックし、清潔に使用できるようにします
トイレが不潔な状況では、被災者の不満や怒りが増幅します。また、トイレに行くのを我慢するために、飲食、水分を控える人が出ます。さらに、敷地外の公園などの茂みの中に汚物が放置されたり、トイレの中が水浸しになり、その足で各部屋に出入りするなど、避難所では予期しないことが発生します。
・自主的に清掃担当者を決め、定期的に清掃し、仮設トイレの消毒作業をして下さい。
・下痢を起こす感染症の予防のために、排便後・糞便処理後は、十分に手洗いをします。
また、数に余裕があれば小便用と大便用、さらに下痢をしている人のトイレなどを分けることも対策になります。男女分けるのは早期から行うことが望ましいです。トイレは避難所などの組織の鏡とも言えます。トイレの衛生状況をバロメーターとしながら自主的な組織の運営を支援します。

3.食事を適切に管理します
 「次にいつ配食があるか分からない」という不安感や、炊き出しによって確保した食糧を長期間保存する人も出てきます。不衛生な食事は、食中毒の原因となります。
・製造日などを確認します
・製造者名や製造日付などの無い弁当や賞味期限切れのものは配食しません
・配色前には味、臭いなどに異常の無いことを複数の人数で確認します
・食品、特に弁当類は衛生的な場所に保存する、また、直射日光や暖房されている場所での保管はさけ、ネズミ、ゴキブリ等の害を受けない場所に保管します。
・調理器具の洗浄、消毒や使い捨て食器の使用、アルコール消毒液の利用を促します
・保存に適した炊き出しメニューを選定します

4.持病のある方や、乳幼児は、栄養管理を積極的にします
阪神・淡路大震災では、被災2ヶ月後の健康診断で、中性脂肪値の上昇や、貧血、高血圧傾向が確認されました。原因としては、食事のバランスの悪さ、糖質、脂肪、塩分過多、鉄、ビタミン不足等が考えられます。避難所での炊き出しをきっかけとして、栄養改善への意識付けや自発的な食事への取り組みを促します。さらに、栄養士が指導にあたると効果的です。
アレルギー患者へのアレルギー用食品の配布、糖尿病患者への支援、乳幼児栄養相談も行います。食事は生活において極めて重要ですので可能な限りバランスよく充実させることが求められます。
・限られた食料で可能な限り栄養士などの指導を受けバランスを良くします。
・炊き出しをするときには、塩分の量など調理内容に気をつけます。
・食生活への関心を持ち続けることができるように、食事内容に変化を持たせます。

5.飲料水を安全に保管します
・給水を受けたポリタンク等には配給日時を明記します。
・古くなった水は生活用水等に用い、飲用に使用しません。
・飲水にはできるだけペットボトル入りのミネラルウォーターを利用します
・水道管の破裂箇所からの噴出水や湧水等は飲用に用いません。
・井戸水については、水質調査を行ってから使用します(近くの鉱山にあったヒ素などが微量検出された例がある)。

6.定期的に毛布の日干し、通風乾燥、寝具交換をします
避難所での生活が長引くにつれて、敷きっぱなしの毛布等は汚れ、湿気を含み、特に幼児、高齢者には健康への影響が懸念されます。また、阪神大震災の際には、雨天の多くなる5-6月に入るとダニ苦情等が発生しました。
・晴れた日には毛布の日光干しや通風乾燥を行います。
・利用可能であれば、布団乾燥機を用いて定期的に乾燥を行います。
・高齢者にとって重労働である寝具交換などは、積極的に手伝います。

7.飲酒や喫煙のルールを定めます
避難所生活が1ヶ月を過ぎた頃より飲酒が公然となってきたことが報告されています。
・飲酒や喫煙の広がりを予防するために、ルールを定め、避難所の掲示板などで周知し、皆で守るようにします。

8.周辺の環境衛生の維持を行います
気温の上昇にともなってネズミやゴキブリなどが課題となります。
・ゴミを捨てる場所を定め、ネズミやゴキブリが発生しないように管理します。
・定期的に清掃をし、食べ物や残飯などを管理します。
また、このほかに蚊、ムカデ、ナメクジ、アリ、鳩などの害も発生しうるため発生する可能性があれば早めに対応します。

9.結核にも注意します
阪神・淡路大震災では、被災地の一部が結核罹患率の高い地域であったことや避難生活の疲労やストレス等により、結核患者が増加すると予想され、総合的な結核対策が推進されました。また、乳幼児に対する結核予防のためのBCGの予防接種が、優先的に再開されました。結核対策には、予防、早期発見・早期治療が重要です。
・行政が実施する結核対策には積極的に協力します。
・乳幼児に対するツベルクリン反応やBCG予防接種が再開されたら、必ず受診します。
・咳が2週間以上続く、痰がでる(痰に血が混ざる)、体がだるい、微熱が続く時には早めに医師や保健師に相談するよう促します。

10.ペットの扱いにも注意します
阪神大震災時の避難所では、ペットを連れて避難した人もいて、ペットをめぐるトラブルがありました。ペットの問題は災害時の行政施策としての優先度低いですが、放置すると新たな問題が発生します。
・避難所での犬や猫の飼い方についての啓発をします。
・被災動物の保護、治療、相談、一時預かり等の問い合わせ先を紹介します

参考:阪神・淡路大震災 神戸市災害対策本部衛生部の記録
大震災下における公衆衛生活動(大阪大学医学部公衆衛生学教室)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/eqb/book/10-315/index.html
担当:江口尚、和田耕治

避難所のインフルエンザ対策6つのポイント 

 避難所は集団生活の場であり、また体力が弱っている方々が少なくないと思います。今後、避難所などでインフルエンザの集団発生が多発してくる可能性が高いと思われます。なお、被災地の状況は地域ごとに刻々と変化していると思います。あくまでヒントのひとつとして、現場の状況をご確認いただきながら対策いただければと思います。

1)持ち込ませない

 避難所のインフルエンザ対策において、まず大切なことは「ウイルスを持ち込まない」ということです。言うまでもなく、発熱したボランティアはもちろん、いくつもの避難所を巡回するようなボランティアも、不必要に避難所内に入らないことだと思います。避難所の各エリアを個人の家と同じような感覚であつかい、その隔離性を維持することはプライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も有効だろうと私は察します。

2)流行を早めに察知する

 早期発見、早期対応が感染対策の基本です。そこで、避難所のなかで感染症サーベイランスを始めるのがよいかもしれません。具体的には、毎朝、発熱がある人、咳や咽頭痛がある人、下痢をしている人を数え、集計を続けるというものです。これは医療者でなくても可能です。これにより、感染症アウトブレイクを早期に感知し、必要な施策を早めにとることが可能になるかもしれません。

3)環境の整備

 避難所内の換気も必要ですが、病気の方、ご高齢の方に配慮しつつ、寒冷に十分に配慮して実施してください。インフルエンザに関する限り、頻回の換気は不要だと思います。室内の密度にもよりますが、1日2回程度でよいのではないでしょうか? 室内をあまり乾燥させることは、飛沫を飛散させやすくするので好ましくないという分析もあります。

 共用するトイレでの接触感染は考慮すべき問題かもしれません。トイレの後には、できるだけ手指を流水・石けんで洗うよう呼び掛けたいところですが、現状では水が極めて貴重であるかもしれません。支援物資に擦り込み式エタノール剤があるといいですね。これは支援する側が心にとめたいニーズのひとつです。

4)症状のある方への対応

 インフルエンザに限らず、風邪を含む呼吸器疾患が流行している場合には、症状のある方がマスクを着用することを徹底させたいところです。マスクがない場合には、周囲の人と2メートル以上の間隔を空けるか、もしくは衝立を設けて隔離することが感染拡大防止になるでしょう。このような対応がとれるのであれば、必ずしも感染者の個室隔離は不要だと私は思います。

 とくにインフルエンザ様症状の重い方については、関係者は「避難所では診れない」と行政などに強く訴えられた方がよいかと思います。この方面については「がんばらない」ということですね。可能な限り、入院対応を含む避難所外での療養が原則でしょう。これがご本人のためであり、感染対策でもあると思います。

5)ワクチンの接種

 まだ避難所内でインフルエンザが流行していないのであれば、ワクチンの接種は可能であれば今から考えておくべきことかと思います。とくに基礎疾患のある方々については、今からワクチンを接種しておいた方がよいかもしれません。

 しかし、すでに流行が始まっている避難所では、ワクチン接種を開始しても意味がないかもしれません。この場合は、基礎疾患のある方、妊婦、幼児など重症化リスクがある方については、タミフルの予防投与を選択すべきかもしれません。

 すでに厚生労働省は行政備蓄していたタミフルの放出を決定しています。ある程度、タミフルは潤沢になると考えられるので、予防投与についても積極的に選択できると私は考えています。

6)人口密度を減らす

 言うまでもなくインフルエンザは、集団で生活しているような空間で広がりやすいものです。その意味で、避難所の人口密度を減らすことは、もっとも良い被災地の感染対策だと私は思います。いまの状況では、なかなか大変だと思いますが、目指すべき方向性なのかもしれません。私たち被災地外の市民としては、積極的に被災者の疎開を受け入れるよう呼び掛けたいと思います。

担当 沖縄県立中部病院 高山義浩

2011年3月19日

被災地に対する医療支援の考え方 

 報道では、津波が直撃した高度被災地の映像が繰り返し流されています。しかし、壊滅的な被害を受けた地域のみならず、その周辺では、多くの医療機関が通常の診療体制を維持できずに苦しんでいると思います。

 専門性の高い支援チームによる緊急援助だけが、いま被災地で求められている活動ではありません。医師や看護師のみならず、薬剤師、栄養士、一般のボランティアなどが必要とされているはずです。

 ここでは、災害後の時系列にしながら、どのような被災地の医療支援が求められているか、求められることになるか、私の個人的な経験に基づき考えてみたいと思います。

 なお、憶測で支援活動を開始するのは厳に慎みましょう! かならず現地の医療機関、ボランティアセンター、地域医師会、行政機関に問い合わせ、ニーズがあるかの確認をしてください。そして、支援者は交通手段、および衣食住について自己完結できる装備で現地入りすることが原則です。決して、現地のリソースを浪費しないこと。かつ、ヒットアンドアウェー方式、つまり支援を終了したら速やかに被災地を離れることが基本です。

■ 発生直後から5日後まで

 災害直後の超急性期においては、現地病院、診療所の機能を破綻させないための物理的支援が求められます。最低限の医療機器を動かす発電機、夜間での診療を可能とする小型投光機があれば、日暮れた後でも、負傷者が殺到する救急外来を維持することができます。おそらく5日目までは外科系の患者がメインだと思います。つまり、ひたすら縫合できる医者が必要です。

 また、入院患者を抱える医療機関では、病院食を持続的に提供できるかどうかが存続のカギとなります。ライフラインが断絶している場合には、飲料水、そしてプロパンガスとコンロにより基本的な調理ができるような支援が必要です。

 こうした状況では栄養士の知識が必要です。ありあわせの支援食材で、入院患者ごとの病院食(たとえば低カリウム食、潰瘍食など)を工夫しなければならないからです。多くの支援食材には、保存性を優先した塩分が高めのものが多いようです。肝障害、心不全、腎不全などの患者むけ特殊食材については、ピストン輸送で支援することも考えてください。

 透析患者や糖尿病、心不全などの重症患者については、被災地では管理できないかもしれません。こうした診療が可能な医療機関への転送も検討すべきだと思います。

■ 6日後から14日後まで

 6日を経過すると、続々と医療支援チームが到着しはじめ、各自治体行政の災害対策本部ですら、医療支援の全体像がつかめなくなります。発生当初とは異なる意味での混乱がはじまります。

 日本赤十字社(以下、日赤)らを中心とした大手の医療支援チームが集合し、地元の医師らと活動状況を交換して、受診者数の動向や症例提示を行うようになるでしょう。このころになると遊軍型の支援活動は、ときに混乱を助長する可能性があるので注意してください。ある程度、あなたが継続的かつ組織的に活動することができているのなら、独自の立場で支援者会議に参加することも可能ですが、地元の医療機関や大手の支援団体の一部になるよう心がけるべきです。あなたの活動を行政やボランティアセンターが把握していることを常に確認してください。

 各地で、日赤が被災地医療において指導的な役割を果たしていることに違和感を持たれる方もいるかもしれません。日赤は「日本赤十字社法」という法的根拠があって行動しており、同法33条に「国の救護に関する業務の委託」というものがあり、非常災害時における国の行う救護に関する業務が日赤に委託できることになっています。あるいは「災害救助法」では、「政府は日本赤十字社に、政府の指揮監督の下に、救助に関し地方公共団体以外の団体又は個人がする協力の連絡調整を行わせることができる」(第32条の2第2項)とされています。つまり、行政システムの空白期間には、日赤が業務を代行したり、施設の整備をすすめることが認められているのですね。もちろん、日赤が支弁した費用を国が補償することにもなっています。

 この他、日赤は「災害対策基本法」で指定公共機関とされており、国の災害救護事業の一部となっています。日赤が指揮を始めたら、活躍の場を「奪われた」と感じて反発するのではなく(そういう陣取り合戦を好む団体が少なくありません)、日赤を核とした緊急医療支援体制として、地元医師会等も参加したチームワークを形成するよう心がけてください。

 さて、この頃より被災地の医療機関には、定期薬を内服できずにいた慢性疾患の患者が増悪して運ばれるようになります。つまり、内科系の医師にニーズがシフトします。主な疾患は、高齢者の脱水や肺炎、小児や成人の喘息発作、糖尿病や心不全の急性増悪などが予測されます。この傾向は、地域の医療機関が復興し、主治医による定期外来診療が再開されるまで継続します。

 さらに、外傷患者の創部感染による全身状態の悪化も多発しはじめます。人手も資材も不十分な被災地の医療機関では管理できないので、診療が可能な医療機関への転送が必要です。事前に、医療機関ごとに後方支援病院を決定しておいた方がよいかもしれません。

 車中泊を続けている被災者(ときにボランティア)が、長時間同じ姿勢で寝続けることによるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)を発症しはじめます。姿勢のほかにエコノミークラス症候群を引き起こしやすい環境として、乾燥と寒冷があります。つまり、いまの被災地は発症の好条件と言わざるをえません。

 エコノミークラス症候群により静脈内に形成された血栓が飛んで肺塞栓を引き起こすと、呼吸困難と胸痛などの症状が出ます。さらに進行すると、血圧低下、意識消失などを生じ、重症な場合には、そのまま心肺停止します。非常に怖ろしい疾患であり、大切なことは予防です。乾燥を防止し、水分を補給し、休息時にも適度な運動を行うこと。そして、下肢の静脈内に血栓がないかを早めに診断してもらうこと。つまり、この時期には、ポータブルエコー機器を使える技師による被災地の巡回検診が求められます。

 また、混雑したトイレに行かずにすむよう水分制限をしている避難者が多いことにより、尿路感染症の患者も多発しはじめます。これを予防するため、とくに女性向けのトイレゾーンの設置と衛生状態の確保が急務です。

■ 15日後から1ヶ月後まで

 多くの地域でライフラインは復旧し、医療体制は平時に近づきつつあります。しかし、それまで高度の緊張状態で仕事をつづけていた現地スタッフが疲労で倒れはじめます。限界状況での判断を続けてきた幹部クラスから、子供を含む多くの被災者の死を目撃してきた医師、看護師、薬剤師、放射線技師、理学療法士、栄養士、ケースワーカー、事務や清掃の担当者にいたるまで、傷ついた心と体を休めることが必要です。

 おそらく自宅は散乱したままで、使命感に従って仕事を続けてきたはずです。彼らに休息をとらせるために、様々な医療の専門性を有する職種や一般のボランティアが、日常業務の代行支援を必要としているはずです。

 緊張状態がはずれ、疲労に気がつく頃、風邪をひく人が増えてきます。また、場合によってはインフルエンザの流行をみるかもしれません。避難所の感染対策については、また別に書いてみたいと思いますが、今から考えておくべきことはワクチンの接種です。とくに基礎疾患のある方々を守るためにも、避難所での生活が長引きそうな方々については、老いも若きもワクチン接種にご協力いただいた方がよいかもしれません。

 あと、当たり前のことなのですが、発熱したボランティアは即刻被災地退場です。とくに、熱を出したまま避難所などにゼッタイ入らないこと。避難所で流行する多くの感染症は「最初はボランティアが持ち込むもの」であることを自戒しましょう。

 また、避難所で生活している高齢者は、寒冷下で毛布にくるまって、ほとんど動かずにいるため筋力が衰え、関節が拘縮(可動域制限を起こす状態)してきます。できれば早い段階からリハビリを開始しておくべきですが、その後、こうした高齢者が寝たきり状態になるかどうかの重要な時期にさしかかります。理学療法士、整体師、ヨガなどの専門家が多数必要になってきます。

 新潟県中越地震のとき、小千谷市の保健師らが震災後3週間の時点で実施した被災者約1万7千人の健康状態調査では、234人が健康相談など何らかの支援が必要と判断されています。そのトップは「心のケア」で41%で最も多く、健康相談(27%)、医療機関の受診(25%)、食事・トイレなどの介助(18%)と続いています。自覚症状では不眠や憂うつ、意欲低下など精神的な症状が目立つという結果でした。

 つまり、この時期には、孤立した被災者がうつ状態にないかを確認することが必要です。周囲が復興し、家族と再会し、新たな生活の目途が立ち始めるなか、一部の方は焦燥と絶望を行き来しているかもしれません。こうした被災者の自殺を予防することも含め、避難所などでの声かけ、話し相手が求められるようになります。

 ただし、災害の記憶を引き出させるような話題は避けるべきです。災害のたびに重ねられている失敗だと私は思っていますが、「小児の被災者に災害の絵を描かせるのは禁忌」です。記憶を固着化し、PTSDへと誘導すると言われています。こうした治療法(ポスト・トラウマティック・プレイセラピー)が臨床心理士によって行われることはありますが、あくまでトラウマ化している小児に対する専門的なアプローチであることをご理解ください。

 小児については、忌まわしい記憶を忘却することが可能なので、ボランティアレベルでの支援介入では「思い出させないことが重要」なのです。メディアも含めて、災害の体験を子供に語らせたり、描かせたりしないようにしてください。

 高血圧などの慢性疾患をもつ中高年の方々は、明らかな症状を認めていなくとも、「血圧が高いのではないか」、「血糖値が不安定なのではないか」、「不整脈が出ているのではないか」といった、漠然とした健康不安を抱えながら家の片付けなどに追われていることが多いものです。避難所などを医師や看護師が定期的に訪れて「体調を見守ってさしあげる」ことは、震災後の様々な不安のなかで「ひとつの安心」を提供する活動となると思います。

 ただし、巡回診療で血圧などを測定して「ちょっと高いですね」と事実だけを伝えて、そのまま何もしないのであれば、単に「不安を助長する活動」にすぎませんね。私は、症状のない被災者の血圧や血糖を測定するのは反対です。基本的には健康不安への傾聴とアドバイスを行ない、とくに希望があれば血圧を測って差し上げればよいでしょう。

 避難所を対象とする巡回診療の重要な役割は、かかりつけの診療所や病院の再開を告げることだと思います。ですから、地元保健師らと連携しながら各医療機関の復興状況について情報収集をこまめに行い、医療が復興しつつあることの広報が必要な時期と言えるでしょう。地域の保健医療資源を把握し、今後の地域医療の担い手となるのは、やはり地元の医療機関です。被災地医療支援の最終的なゴールとは、患者さん一人一人を安心した気持ちのまま、かかりつけ医へと誘導することですから…。

■ 1ヶ月後以降

 震災から1ヶ月が経過すると、避難所も救護所も縮小されはじめるでしょう。そして、被災地の医療は緊急支援より地域主体へと引き継がれる段階となります。

 ただし、復興の足取りは弱者の歩幅というよりは、むしろ強者の論理でことが進められがちです。また、問題にフタをすることで、災害の現実から逃避しようとするメンタリティが働くことも多いと思います。実際、平時の介護現場ですら、家族が「うちは大丈夫」と言っていながら、奥の部屋で高齢者が厳しい状態に置かれていることが珍しくはないわけで…。

 過去の災害事例を振り返ると、行政は避難所の閉鎖を思いのほか早く進めるという印象が私にはあります。復興を急ぐ空気と追いつけないでいる被災者、とくに高齢者の方々を長期で関わるボランティアは代弁することができます。ただし、彼らを抱え込むのではなく、行政と連携して地域の医療や福祉のなかに居場所を探してさしあげるようにするべきです。少なくとも、地域医療の担い手となりえない外来ボランティアの手に委ねられるものではないですね。

 そして、とても大切なことですが、疎かになり後味を悪くしてしまう問題があります。それは、引き際の問題です。あらゆる支援活動は、開始する段階で支援終了の目安を設定しておく必要があります。それは、被災地の医療機関の復旧状況や避難所の人数などが指標となるかもしれませんね。

 ただ、被災地の状況は刻々と変化するため、ボランティアは自らの活動に耽溺せず、地域全体の状況について把握しておく必要があります。そのためにも、自治体や医師会などと連携をとりながら、地域の復旧状況を逐次確認し、また他の支援団体の動向にも目を配っておきたいものです。どのような援助も、長期化すると現地のシステムに組み込まれ、依存関係を生み出す恐れがあります。漫然と支援活動が継続しないように配慮すべきですね。

■ おわりに

 テレビ報道をみていると、専門的な災害医療を背景としたチームばかりが活躍しているように見えるかもしれません。瓦礫の下の医療であるとか、多数の負傷者を前にしたトリアージ技術といったイメージが先行しがちですね。でも、こうした専門性の高い災害医療とは被災直後(およそ72時間以内)の特殊な状況において求められるものです。国内外の被災地支援に関わった経験から申し上げますが、時間的にも空間的にも圧倒的に求められていたのは、被災地の病院・診療所において平時と変わらぬプライマリケア・サービスを安定して提供できるよう支援する活動でした。

 支援を躊躇する理由はありません。あなたにもできることがあるはずです。ただ、大切なことは現地のニーズをきっちりつかみ、「支援したい」という自らのニーズに溺れないことですね。ここで私が書いたことも、イメージの一助に過ぎないことをご理解ください(あらゆる被災地は刻々と変化しながら助けを求めています)。おおよその震災医療支援の流れをつかんでいただいたら、まずは友人のつてなどを利用して、あるいは支援活動団体などに申し込んで、あなたならではの支援をはじめていただけることを期待しています。


さらなる理解のために(参考となる文献):
1) 田中良樹:被災現地の災害医療と避難所医療.治療 84(4): 1286-1291, 2002. <神戸震災の経験から災害時の医療ニーズについて整理されている>
2) 山本義久:大災害時の情報収集と医療.治療 84(4): 1317-1320, 2002. <大災害時の医療情報収集の手段としてインターネットの有効性を紹介している>
3) 石井昇:災害医学教育の現状と課題.救急医学 25(1): 85-90, 2001. <わが国の災害医学教育の現状と問題点を指摘し、具体的な教育方法について提言している>
4) The Sphere Project. 2004/アジア福祉教育財団難民事業本部:スフィア・プロジェクト-人道憲章と災害援助に関する最低基準.アジア福祉教育財団, 2004. <多くの援助機関の経験に基づき作成された災害援助の国際的イニシアチブ>
5) 高山義浩 : 新潟中越地震におけるプライマリ・ケア支援活動 . Journal of Integrated Medicine 15(8) : 662-664, 2005. <筆者による震災地域における医療支援活動についての報告と検討>

高山義浩(沖縄県立中部病院)

2011年3月15日

簡易トイレもない被災地の担当者が知っておきたい7つの基本原則

1.衛生状態の維持のためにできるだけ早期にトイレを設置しましょう。
 津波災害において糞便は衛生状態の維持に対する最大の驚異であり、速やかなトイレ設置は極めて重要な課題です。トイレの設置がおくれて不潔な状況が生じると被災者の衛生意識も低下しがちになってしまいます。

2.被災直後に最も実用的なのはトレンチ式トイレ(溝式トイレ)です。
 いわゆる溝を掘っただけのトイレです。可能であれば足場や手すりを設置しましょう。溝の大きさは深さ1m、幅75cmとすると利用被災者50人あたり長さ3.5mが目安となります。しかし、溝掘りは相当な重労働ですのでまずは可能な範囲で溝や穴を掘って対応し、順次、拡張していくのが現実的でしょう。ただしトイレの溝掘りは大変ですので、できれば当初から余裕をもって設置することが勧められます。可能であれば重機の利用を検討してください。

3.設置にあたっては生活水源の汚染予防に留意しましょう。
 トイレの設置にあたってはプライバシーのみならず、生活水源が汚染されないという点にも十分に留意しましょう。トイレを優先的に整備する目的は水質汚染源の汚染防止にあるといっても過言ではありません。なぜならば津波災害後には下痢症などが流行することが多く、その原因としてもっとも多いのは糞便による水質汚染だからです。

4.糞便には殺菌消毒薬を直接注がないようにしましょう。
 細菌による分解が遅れてしまいます。 悪臭や害虫対策には灰・油・土が有効です。用便のたびに土等をかけ、溝が縁から30cmの所まで一杯になったら土をかけて固めましょう。

5.トイレ用地計画
 用地としては 1カ所以上の区域(例:20m×20m)を住居から離れた風下の、通うのに不便がない程度の近さに選定しましょう。区域は男女別に指定しましょう。この区域に排泄場所を設け、入り口の一番遠くから順に使用します。トイレは夜間も使え、女性や子どもも安全に利用できることにが必要です。場合によって子供や障害者用の区域を別途選定することも検討しましょう。用地面積の基準は1日1人あたり0.25平方mです。上記の例は50人が1ヶ月利用を想定した面積です。使用期間が1ヶ月を超える場合は新たな用地を選定しましょう。

6.被災者向けに広報活動を行ない排泄区域の利用をうながしましょう。
 トイレは使用が可能であっても、清潔でなければ使われないため、毎日、点検し、必要に応じて清掃することが必要です。特に住居や給水設備付近では排泄しないよう呼びかける必要があります。また手洗い場所を近くに設けましょう。石けんの利用が可能であればなお好ましいと考えられます。
ただしトイレや手洗い場の設置にあっては飲用や調理に利用する水が汚染されないことに十分留意する必要があります。

7.トイレットペーパーについて
 トイレットペーパーの不足は大いに困る問題で、過去の震災でも幾度も指摘されています。これから被災地に入る方は被災者のためにも十分量を持ち込むとよいでしょう。日本の歴史的には紙以外にワラ・葉っぱ・木などの棒・石などが利用されることがあったそうです。支援物資が届くまでの間、入手可能な物資で乗り切ることが求められます。


産業医科大学公衆衛生学 久保達彦
[ 参考資料 ]
JICA国際緊急援助隊医療チーム中級研修資料
UNHCR緊急対応ハンドブック

2011年3月14日

生活のための飲料水の担当者が知っておきたい8つのこと

水の確保提供は被災者支援のトッププライオリティ-です。

1.  水質に配慮しつつ量の確保を優先します

2.  災害発生後数日の一人当たりの必要水量は水5-7L/日ですが、できるだけ早期に一人当たり15-20L/日の水を確保します。

3.  水が不足する状況では給水車からの水は飲用水として優先利用し、生活用水としては自然水源の利用を考慮しましょう

4.  理想の自然水源は湧き水ですが雨水も比較的清潔です。海水も飲用以外にはほとんどすべての用途に使用可です(ただし津波注意報が解除されていることが利用の前提になるでしょう)。一方、河川・池・湖・貯水池などの水質が飲用に耐えることはめったにありません(飲用不可)。

5.  どうしても飲用水が不足する場合、自然水源(湧き水か雨水が理想)を飲用水として利用することになりますが、この場合、浄化(不純物を取り除くくこと)と殺菌の処理が必要になります。(濁り水・不透明な水は基本的に飲用に耐えません。浄化が必要です。)

6.  浄化の最も簡単な方法は容器・タンクに貯水して上澄みを得ることです。混濁の程度によりますが、12-24時間貯水しておくだけでも水質は大幅に改善します。

7.  殺菌処理として最も簡易かつ有効な方法は煮沸(1分程)です。

8.  入手可能であれば浄水殺菌剤(塩素やヨード)を利用しましょう(自治体で備蓄されている場合があります)。

給水システムの安全性を最も脅かすのは糞便による汚染です。トイレの管理を同時に進めましょう(他項:避難所のトイレに関する基準参照)。


参考文献: UNHCR緊急対応ハンドブック等
産業医科大学公衆衛生学 久保達彦

2011年3月12日

避難所のトイレに関する基準 スフィアプロジェクト

避難所のトイレはどういう状況でしょうか?実際には理想になるかもしれませんが改善の際に参考になろうかと思います。こちらはスフィアプロジェクトより(人道憲章と災害援助に関する最低基準)2004 アジア福祉教育財団より日本語版。


これから胃腸疾患の感染症がアウトブレイクする避難所がでると
思いますので啓発が必要です。


>>>>>>以下引用<<<<<<<


・1 つのトイレにつき最大使用者数は20 人
・対象とするすべての利用者、共用または公衆トイレを使用できるよう、掃除され、維持されている


公衆トイレ:災害の初期段階で公共の場所に一般用のトイレを設置する必要がある場合、 トイレを定期的に適切な方法で清掃して維持するシステムを確立することが非常に重要である。
分類された被災者のデータを使用し、女性用と男性用スペースの比率を考える必要がある(およそ女性 3: 男性 1 )


子どもの排泄物、し尿に関係する疾患は成人よりも子どもへの感染率が高いことが多く、また子どもは免疫力も弱いことから、一般的に子どもの排泄物の処理は成人のものよりも危険が高いため、子どもの排泄物の処理には特別な注意を払う。


安全な施設 :不適切な場所にトイレを設置すると、特に夜間は女性や少女が襲われる危険が高くなるため、女性が安心して安全にトイレを使用できる方法を見つけ出さなければならない。


手洗い:疾病の拡がりの予防策として、用便後と食事と調理前の手洗いの重要性は、強調しても強調しすぎるということはない。用便後にせっけんなどで手を洗う設備が必要であり 、 トイレの使用者には手洗いを促す。そのため、 トイレの近くには常時水が使える水源がなくてはならない。


衛生的なトイレ:不衛生なトイレは、疾患蔓延の元凶であり、人びとは トイレを使用することを好まなくなる。 使用者に当事者意識があると、トイレの清潔が保たれる傾向がある。そういう感覚を養うために、促進活動を行い、寝所近くにトイレを設置し、設計・構造の決定、適正な運用、メンテナンス、モニタリング、使用に関する規則の決定に使用者を参画させる。 トイレを清潔に保つ、封水を張る、換気機能付き改良型( V I P ) トイレにする、単に排便用の穴に正しくふたをするなどの方法によって、蝿や蚊の発生を抑えることができる。