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2011年4月19日

東日本大震災の復旧・復興に求められる働く人の健康を守る産業保健活動


和田耕治(北里大学医学部公衆衛生学講師)


 東日本大震災の復旧・復興に関わる方々は様々な危険有害要因にさらされる可能性があり産業保健の観点からの対応が求められる。
 災害の初期には、自衛隊や消防隊などある程度訓練を受けた人が対応にあたるが、今後被災者自身が片付けなどを行ったり、またボランティア、民間の業者の労働者などの関わりが増す。こうした人々を危険有害要因から組織的に守り、二次災害を予防する必要がある。
 危険有害要因としては次のようなものが挙げられる。
 1.生物学的要因
 感染症対策としては、公衆衛生では避難所での感染対策(胃腸炎、インフルエンザなど)が主と考えられがちであるが、その他に被災地においては、がれきに含まれるレジオネラ、作業によって山林などに入ることによるツツガムシ病、そしてけがによる破傷風といった感染症から労働者やボランティアを守る必要がある。
 2.化学的要因
 様々な化学物質が津波によって流されて被災地に拡散しており、これらの曝露から労働者やボランティアを守る必要がある。また、がれきの片付けによって発生する粉じんや、アスベストは阪神・淡路大震災やワールドトレードセンターのテロでも課題となっており喫緊の課題である。
 3.物理的要因
 原発事故による放射線への対応、そして、これまでは寒さ対策であったが、今後は暑さ対策が必要である。さらに、腰痛など筋骨格系の予防や、けがの予防が必要である。
 4.心理社会的要因
 作業者の疲労や過重労働、過酷な労働環境、そして被災者のストレスを受け止めることによるストレスなどへの対応が求められる。
 5.健康管理
 作業者としての派遣やボランティアとして参加にあたっては十分な健康が保持されているかを確認し、持病などがある場合には配慮をする必要がある。
 これらの要因に対してすでに様々な災害や産業現場での教訓や経験が産業保健には蓄積されており、今こそ実践に移す時である。
 しかしながら、様々な課題があるが2つの課題を強調する。
 1つ目の課題として、産業保健の知識と実践をどのように現場に反映させるかである。ボランティア組織や、民間業者などは数多くあり、それらのすべての情報を流し、さらにすべての人に実践していただくことは容易ではない。インターネットなどの活用はその解決の糸口にはなりうる。しかし、情報の入手を容易にし、かつ分かりやすくした情報を豊富に、そして様々なチャネルで産業保健の専門家や行政が流すことが求められる。また、行政や業界団体などが労働者の健康を守る産業保健の視点を常に意識するための仕組みが必要である。
 2つ目の課題としては、「リスクに応じた対策」ということが現場では容易ではないことである。人は一般的に「小さなリスクは大きく感じ、大きなリスクは小さく感じる」傾向がある。放射線でも、粉じん対策でもリスクに応じたバランスの良い対策が必要であるが、実際に現場での具体的な対策に関する判断には「応用」が必要であり、また過剰な対策を予防するには専門家の関与が必要となる。こうしたことからもリスクに応じた対策の具体例を多く提供しつつ、産業保健の専門家ができるだけ関わることが課題の解決になると考えている。
 産業保健の視点は復旧・復興になくてはならないものであり、我々産業保健の専門家への期待は大きく、それに応えなければならない。また、経験したことのない新たな課題に対しては協力して解決をしていかなければならない。

2011年4月17日

被災した建物に入る際に自分を守るために知っておきたい10のポイント

1.被災した建物は安全でないことを前提にします。

 被災した建物は、安全なように見えても、さらなる余震などで倒壊の恐れなどがあります。できるだけ専門家によって建物の安全が確認されてから入ります。また、臭い、異音がしたらすぐに安全な場所に退去します。子どもたちは安全が確認されてから入るようにします。



2.さらなる安全を確保するために準備をします。 

 予期せぬ火災に備えて消火器をそばに確保します。保護具(ヘルメット,保護めがね,保護手袋,安全靴,保護マスク)を適宜装着します。重量物を取り扱う作業(一人あたり20Kg以上)は一人で行いません。また、適切な休憩時間は確保するように計画的に行います。暖房器具・換気器具・エアコンディショナーなどは、使用する前に点検し、きれいにしてから使用します。



3.感電を予防します。

 感電の危険性がないことを確認するまではメインのブレーカーを切ります。特に、電気回路や電気製品が濡れている,水の中やそばにあれば直ちにメインのブレーカーを切ります。主電源を操作するために,水に入る必要がある際には,電気技師など専門の方に相談します。また、水の中に立って作業をしているときには,絶対に電気機器の電源を操作しないでください。



4.家をきれいにして、物が腐ったり壊れたりしないようにします。

 水を吸収したもの、乾燥できないもの、きれいに出来ないものは捨てます。

 水漏れがあれば修理します。湿気を除くために、ファン、除湿装置を使用し、ドア・窓を開けます。防腐処置として、約4リットルの水に1カップの漂白剤を混ぜた水や漂白剤混合物で洗い、堅いブラシで表面をこすり洗いし、きれいな水ですすいでから、乾かします。水を吸収しない素材で覆われたもので津波の水にさらされたものは、まず石鹸と水で洗い、20リットルに1カップの漂白剤を混ぜたもので消毒し、空気乾燥させましょう。漂白剤を用いる際は保護具を着用し、換気のために窓とドアを開けます。漂白剤とアンモニアは決して混ぜないで下さい。 発生したガスを吸い込むことにより死亡することがあります。



5.危険物があることを想定し、適切に対処します。

 危険物があった際にはまずはどのようなものであるか、また状態を確認します。自分で対応できないと考えた際には専門の業者や役場などに相談をします。もし自分で取り扱いが可能な際でも,適切な保護具を着用します。また危険物が手についたりした場合には直ちに洗浄し、必要に応じて医療機関を受診します。車のバッテリーを取り扱うときには,絶縁用の手袋を着用し,注意深く対応して下さい.バッテリーから漏えいしている酸などには触れないようにして下さい



6.一酸化炭素中毒は死に至ることもあるため、最大限の注意を払います。

 屋内や車庫などの換気の良くない場所では、発電機・圧力ワッシャー・木炭使用のグリル・キャンプストーブまたは他の燃料を燃やす装置を使用すると一酸化炭素中毒の恐れがあります。また、出入り口、窓、空気孔などの空気取り入れ口の近く(屋外であっても)にも、これらの装置を置かないようにします。一酸化炭素は無臭無色であり、死亡する危険があります。



7.発生したかびが健康を害することを知り適切に対応します。

 津波や台風,洪水の後は,湿度が上昇するため,カビが繁殖しやすい環境です.喘息やアレルギーや,呼吸器疾患を持っている方は,カビを吸い込むことにより持病が悪化する可能性があります。カビに曝露すると,鼻水,目のかゆみ,喘息,皮膚のかゆみ,などのアレルギー症状が生じます.また,慢性閉塞性肺疾患の方は,カビが肺に感染しやすい状態になっています.症状が出た場合には,すぐに専門家に相談をして下さい.

カビは,見た目と臭いで認知することができます.洗濯,消毒ができないもの(例:マットレス,カーペット,パッド,絨毯,布張りの家具,化粧品,動物のぬいぐるみ,幼児用・乳児用玩具,枕,スポンジゴムで覆われた物,本,壁紙,紙製品など)は,取り除くか破棄して下さい.

汚水や下水が浸み込んでいる化粧ボード,保温材は取り除くか破棄して下さい.表面が固く滑らかな器具(例:フローリング,木造や金属の家具,調理台,調理器具,洗面台,その他の衛生器具)は,熱湯や食器洗い用の洗剤で十分に洗浄して下さい.



8.作業の合間や終了時には手をこまめに洗います

 手になにが付着するかわかりませんのでこまめに手を洗うようにします。できるだけ石けんを用いて、清潔な水で洗い流します。また衣服にも泥などが付着するのでなるべく早く洗濯し、玄関などで脱ぐなどして生活の場に泥などを持ち込まないようにします。



9.けがを予防し、けがをした場合には直ちに清潔な水で洗います。

 被災した建物にはガラス片や釘など様々なものがあるためけがを予防することが第一です。しかし、もしけがをした場合には直ちに清潔な水で十分に傷を洗います。また必要に応じて医療機関を受診します。破傷風菌が傷から入り、発症すると死に至ることもあります。10年以内に破傷風のワクチンを接種していない人は予防的破傷風ワクチン接種も可能でしたら行うことも良いでしょう。ボランティアとしてこのような作業をされる方は接種してから現地に入りましょう。



10.安全運転を心がけます。

 交差点などでは一旦停止してよく見てから横断します。早めの点灯をし、徐行運転し、車間距離を十分にとってください。路上のごみ・残骸に注意します。シートベルトを締める、飲酒運転をしないなど普段通りにします。



担当:田中完(新日本製鐵(株)名古屋製鐵所産業医)、江口尚、和田耕治(北里大学医学部公衆衛生学) 



参考:米国CDC.Clean up safely after a disaster


2011年3月30日

ボランティア活動で病気やけがをしないために知っておきたい4つのこと

1.ボランティアに参加する前に
 1)体調は万全ですか?
 体調が悪い時、特に発熱、下痢、嘔吐、咳等が見られる時は、被災地に入るのを控えましょう。被災地の外から来たボランティアが、被災地に感染症を拡げてしまうことがよくあります。
 現地入りする前に、破傷風、インフルエンザ、麻疹のワクチンを接種しているか確認し、必要に応じて追加接種をしましょう。また、医療に関わる人はB型肝炎ワクチンの接種が必要です。

 2)ボランティア組織に入りましょう
 被災地のボランティア組織などに登録して、現地のルールに従って行動しましょう。組織で動くことで、チームで作業することができ、お互いに安全を確認したり、シフトを組んで適切な休憩をとったりすることができます。

 3)ボランティア保険に入りましょう
 被災地は危険なところが多いですから、ケガをしたり病気になったりすることも考えられますので、できれば保険に入っておきましょう。ボランティア団体に所属している場合は、団体として保険に入っている可能性がありますが(念のため確認しておいてください)、個人としても契約することができます。最寄りの社会福祉協議会が窓口ですので、出発する前に入っておきましょう。掛け金は年間数百円ですが、保証される手術保険金でも数十万円までと少額ですので、普段から入っている傷害保険と併用することが一般的なようです。自分が普段から入っている保険内容も確認しておきましょう。


2.復旧作業に関わるときは、自分がケガや病気にならないように
1)けが
 動いている重機の近くは危険なので、近づいてはいけません。
 小さな傷口でも、泥や汚染された水にさらされると、化膿してしまったり、破傷風のような命に関わる病気にかかってしまったりすることがあります。
 もしけがをしてしまったら、すぐにきれいな水と石鹸で洗い流して、破傷風予防の処置が必要かどうか、医師に相談してください。破傷風は発症した場合には20%50%が亡くなってしまう致死率の高い病気ですが、今回の震災でも、すでに破傷風にかかった人が報告されています。

2)腰痛
 重いものを一人で持ち上げると、腰痛を引きおこすことがあります。おおむね22kg以上の重量物を運ぶときは、無理をせず2人以上で作業をするようにしましょう。

3)酸欠・硫化水素中毒
 津波で海水をかぶった建物の中は、十分な換気をすることができない場合があります。海水が入ってから長時間放置されていると、貝などが大量発生したり、そこにあるものが腐ったり、室内に大量のカビが増殖していたりすることがあります。そうすると、微生物が室内の酸素を消費してしまい、酸素欠乏症になる危険性が高くなります。酸素濃度が極端に低い空気を吸うと、一回呼吸するだけで酸欠で即死してしまうことがあり、非常に危険です。また、いろいろなものが腐るときに有毒な硫化水素が発生してしまうこともあります。大量の硫化水素を吸入すると、短時間であっても命に関わることがあります。
 海水がかぶった閉鎖空間、建物の中は、非常に危険ですので、立ち入る際には十分な換気が確保できるかを確認し、できるだけ消防や自衛隊などに相談しましょう。また、酸欠・硫化水素中毒のおそれがある場所に倒れた人がいても、救助しようとして無防備に飛び込むとさらに助けに入った人が酸欠で被災するので大変危険です。必ず、消防や自衛隊に助けを求めましょう。

4)有害化学物質による中毒
 災害現場には、石油、家庭用の薬品、農薬など、いろいろな化学物質が漏れ出しています。一部は混ざって化学反応をおこし、想像もつかないような物質が発生しているかもしれません。また、ゴミを野焼きにすると、有害な煙が発生する可能性もあります。少なくとも、変なにおいがするものには近づかないようにしましょう。
 ただし、有害化学物質の中には、一酸化炭素のように無味無臭のものも少なくありませんので注意が必要です。気分が悪くなったら、すぐに新鮮な空気のあるところまで逃げ出しましょう

5)脱水・栄養
 トイレ事情が悪いと、水分摂取を控えてしまう人がいますが、十分に水分を摂らないと、脱水症になってしまうことがあります。また、体を動かすには大量のエネルギーが必要です。十分な水分・栄養摂取(特に炭水化物、1食につき1000kcalを目安に)を心がけましょう。


3.保護具の使用を忘れずに
 作業時は必要に応じて、長袖・長ズボン、ヘルメット、ゴーグル、ゴム手袋、防水長靴(つま先と中敷きが金属で補強された安全靴)、保護マスクなどを着用してください。手袋は、内側はニトリル製などの耐切創手袋、外側はニトリルかラテックスの使い捨て(48mmの厚さ)と、二重にすると有効です。軍手では不十分です。


4.避難所での生活支援に関わるときは、体調管理に気をつけましょう
十分に休養と栄養をとって体調管理に努めてください。作業後や食事前、トイレの後は、流水と石鹸で手洗いをしましょう。清潔な水が確保できない場合は、速乾性消毒アルコールを使用しましょう。
 食中毒を予防するために、食事の調理や配膳の担当者は、体調の異変時(発熱、下痢、はきけ、手指のけがなど)には速やかに申告して、交代してもらいましょう。
 咳が出る時は、咳エチケット(マスクをする、ティッシュで口と鼻を覆う)を守りましょう。万が一体調を崩した場合は、迷わず離脱する勇気も大切です。

参考:http://www.cdc.gov/niosh/topics/emres/pe-workers.html
担当:松井亜樹、末廣有希子、河津雄一郎、和田耕治

2011年3月19日

被災地の治安を守るために予防すべき4つの暴力

 
食料、水、避難場所の確保といった日常生活上の問題で混乱するとともに、医療機関や警察などの社会インフラに混乱をきたすようになると、治安が悪化する恐れがあります。​​害後の暴力を予防するためには、必要な人への支援提供と、日常生活が円滑に進むような仕組みづくりが必要です。

1.子どもへの暴力
1)子どもへの思いやりを持ち続けてください。子どもは両親の反応に強く影響されます。
2)赤ちゃんが泣きやまないときは、なぜ泣いているかを把握するために、食べ物、おむつの交換、服の着せすぎや薄着のしすぎがないかなどの基本的な欲求が満たされているか、おむつかぶれなど病気や痛いところがないかを調べます。散歩に連れ出すのもいいでしょう。泣きやませるために、肩、腕や足を揺さぶると、けがや死亡につながる恐れがあるので、決してしません。赤ちゃんがたくさん泣くのは当然のことですが、親にとってはストレスになります。無力感や怒りを感じた際には、少し赤ちゃんから離れて時間をとり、穏やかな気持ちを取り戻して赤ちゃんに接します。
3)親は常に、子供が今、どこにだれといるか、把握している必要があります。
4)信頼できる人の助けを得て、あなた自身も休息をとります。
5)家族と離れ離れになっている子どもがいたら、行政の担当者などに知らせてください。
6)虐待や育児放棄を疑った場合には周囲の人は、訪問した医師や保健師や、児童相談所などに相談してください。

2.家庭内での暴力
1)誰かが暴力的になっているのを目撃したら、危険な状態にある人を逃がすなど距離を確保します。もしあなた自身に危険が及ぶおそれがある場合には周りの人などに知らせます。
2)自分が危険な状態にあることを感じたら、友人や家族、診療所などに助けを求めます。 
3)アルコールを飲ませないようにします。
4)住む所や仕事を失うような困難な状況下では、人間関係に大きなストレスを感じるものです。つらいと感じたら十分休息をとったり、心の健康の専門家の面談や電話サービスを活用します。
5)避難所、地域や学校でのボランティア活動に積極的に参加して、他の人との関わりを持つようにします。

3.性的暴力
1)誰かが性的暴力の被害にあっていたら、助け出しましょう。もし自分に危害が及びそうな場合は、警察に助けを求めます。
2)女性は外出する際は、トイレに行く時なども含めて、単独行動は避けます。
3)人がたくさんいる安全な場所にいるようにしましょう。
4)アルコールは不安やストレスをより強くします。また、アルコールを飲む場では性的暴力を受ける可能性もあります。
5)もし自分や周りの人が被害にあったら、親友や家族に話して十分にサポートを受けます。そして警察に連絡することをためらいません。

.若者の暴力
1)他人を尊重し、違いを認めましょう。ストレスや心配事があっても、他の人をいじめたりからかったり悪口を言ったりしてはいけません。
2)清掃など被災地の復旧・復興活動に参加させます。
3)アルコールや薬物(麻薬)を使用する人には近づきません。これらの物質は不安やストレスを高める作用があり、危険な場所に身を置く機会にもつながります。
4)大声で怒鳴ったり、暴力をふるったりせずに、話し合いで解決するようにしましょう。
5)もしだれかが暴力をふるおうと計画しているのを知ったら、狙われている相手と信頼できる人に知らせましょう。もし報復される恐れがあるときは、警察にも連絡します。

担当:松井亜樹、末廣有希子、和田耕治

被災地に対する医療支援の考え方 

 報道では、津波が直撃した高度被災地の映像が繰り返し流されています。しかし、壊滅的な被害を受けた地域のみならず、その周辺では、多くの医療機関が通常の診療体制を維持できずに苦しんでいると思います。

 専門性の高い支援チームによる緊急援助だけが、いま被災地で求められている活動ではありません。医師や看護師のみならず、薬剤師、栄養士、一般のボランティアなどが必要とされているはずです。

 ここでは、災害後の時系列にしながら、どのような被災地の医療支援が求められているか、求められることになるか、私の個人的な経験に基づき考えてみたいと思います。

 なお、憶測で支援活動を開始するのは厳に慎みましょう! かならず現地の医療機関、ボランティアセンター、地域医師会、行政機関に問い合わせ、ニーズがあるかの確認をしてください。そして、支援者は交通手段、および衣食住について自己完結できる装備で現地入りすることが原則です。決して、現地のリソースを浪費しないこと。かつ、ヒットアンドアウェー方式、つまり支援を終了したら速やかに被災地を離れることが基本です。

■ 発生直後から5日後まで

 災害直後の超急性期においては、現地病院、診療所の機能を破綻させないための物理的支援が求められます。最低限の医療機器を動かす発電機、夜間での診療を可能とする小型投光機があれば、日暮れた後でも、負傷者が殺到する救急外来を維持することができます。おそらく5日目までは外科系の患者がメインだと思います。つまり、ひたすら縫合できる医者が必要です。

 また、入院患者を抱える医療機関では、病院食を持続的に提供できるかどうかが存続のカギとなります。ライフラインが断絶している場合には、飲料水、そしてプロパンガスとコンロにより基本的な調理ができるような支援が必要です。

 こうした状況では栄養士の知識が必要です。ありあわせの支援食材で、入院患者ごとの病院食(たとえば低カリウム食、潰瘍食など)を工夫しなければならないからです。多くの支援食材には、保存性を優先した塩分が高めのものが多いようです。肝障害、心不全、腎不全などの患者むけ特殊食材については、ピストン輸送で支援することも考えてください。

 透析患者や糖尿病、心不全などの重症患者については、被災地では管理できないかもしれません。こうした診療が可能な医療機関への転送も検討すべきだと思います。

■ 6日後から14日後まで

 6日を経過すると、続々と医療支援チームが到着しはじめ、各自治体行政の災害対策本部ですら、医療支援の全体像がつかめなくなります。発生当初とは異なる意味での混乱がはじまります。

 日本赤十字社(以下、日赤)らを中心とした大手の医療支援チームが集合し、地元の医師らと活動状況を交換して、受診者数の動向や症例提示を行うようになるでしょう。このころになると遊軍型の支援活動は、ときに混乱を助長する可能性があるので注意してください。ある程度、あなたが継続的かつ組織的に活動することができているのなら、独自の立場で支援者会議に参加することも可能ですが、地元の医療機関や大手の支援団体の一部になるよう心がけるべきです。あなたの活動を行政やボランティアセンターが把握していることを常に確認してください。

 各地で、日赤が被災地医療において指導的な役割を果たしていることに違和感を持たれる方もいるかもしれません。日赤は「日本赤十字社法」という法的根拠があって行動しており、同法33条に「国の救護に関する業務の委託」というものがあり、非常災害時における国の行う救護に関する業務が日赤に委託できることになっています。あるいは「災害救助法」では、「政府は日本赤十字社に、政府の指揮監督の下に、救助に関し地方公共団体以外の団体又は個人がする協力の連絡調整を行わせることができる」(第32条の2第2項)とされています。つまり、行政システムの空白期間には、日赤が業務を代行したり、施設の整備をすすめることが認められているのですね。もちろん、日赤が支弁した費用を国が補償することにもなっています。

 この他、日赤は「災害対策基本法」で指定公共機関とされており、国の災害救護事業の一部となっています。日赤が指揮を始めたら、活躍の場を「奪われた」と感じて反発するのではなく(そういう陣取り合戦を好む団体が少なくありません)、日赤を核とした緊急医療支援体制として、地元医師会等も参加したチームワークを形成するよう心がけてください。

 さて、この頃より被災地の医療機関には、定期薬を内服できずにいた慢性疾患の患者が増悪して運ばれるようになります。つまり、内科系の医師にニーズがシフトします。主な疾患は、高齢者の脱水や肺炎、小児や成人の喘息発作、糖尿病や心不全の急性増悪などが予測されます。この傾向は、地域の医療機関が復興し、主治医による定期外来診療が再開されるまで継続します。

 さらに、外傷患者の創部感染による全身状態の悪化も多発しはじめます。人手も資材も不十分な被災地の医療機関では管理できないので、診療が可能な医療機関への転送が必要です。事前に、医療機関ごとに後方支援病院を決定しておいた方がよいかもしれません。

 車中泊を続けている被災者(ときにボランティア)が、長時間同じ姿勢で寝続けることによるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)を発症しはじめます。姿勢のほかにエコノミークラス症候群を引き起こしやすい環境として、乾燥と寒冷があります。つまり、いまの被災地は発症の好条件と言わざるをえません。

 エコノミークラス症候群により静脈内に形成された血栓が飛んで肺塞栓を引き起こすと、呼吸困難と胸痛などの症状が出ます。さらに進行すると、血圧低下、意識消失などを生じ、重症な場合には、そのまま心肺停止します。非常に怖ろしい疾患であり、大切なことは予防です。乾燥を防止し、水分を補給し、休息時にも適度な運動を行うこと。そして、下肢の静脈内に血栓がないかを早めに診断してもらうこと。つまり、この時期には、ポータブルエコー機器を使える技師による被災地の巡回検診が求められます。

 また、混雑したトイレに行かずにすむよう水分制限をしている避難者が多いことにより、尿路感染症の患者も多発しはじめます。これを予防するため、とくに女性向けのトイレゾーンの設置と衛生状態の確保が急務です。

■ 15日後から1ヶ月後まで

 多くの地域でライフラインは復旧し、医療体制は平時に近づきつつあります。しかし、それまで高度の緊張状態で仕事をつづけていた現地スタッフが疲労で倒れはじめます。限界状況での判断を続けてきた幹部クラスから、子供を含む多くの被災者の死を目撃してきた医師、看護師、薬剤師、放射線技師、理学療法士、栄養士、ケースワーカー、事務や清掃の担当者にいたるまで、傷ついた心と体を休めることが必要です。

 おそらく自宅は散乱したままで、使命感に従って仕事を続けてきたはずです。彼らに休息をとらせるために、様々な医療の専門性を有する職種や一般のボランティアが、日常業務の代行支援を必要としているはずです。

 緊張状態がはずれ、疲労に気がつく頃、風邪をひく人が増えてきます。また、場合によってはインフルエンザの流行をみるかもしれません。避難所の感染対策については、また別に書いてみたいと思いますが、今から考えておくべきことはワクチンの接種です。とくに基礎疾患のある方々を守るためにも、避難所での生活が長引きそうな方々については、老いも若きもワクチン接種にご協力いただいた方がよいかもしれません。

 あと、当たり前のことなのですが、発熱したボランティアは即刻被災地退場です。とくに、熱を出したまま避難所などにゼッタイ入らないこと。避難所で流行する多くの感染症は「最初はボランティアが持ち込むもの」であることを自戒しましょう。

 また、避難所で生活している高齢者は、寒冷下で毛布にくるまって、ほとんど動かずにいるため筋力が衰え、関節が拘縮(可動域制限を起こす状態)してきます。できれば早い段階からリハビリを開始しておくべきですが、その後、こうした高齢者が寝たきり状態になるかどうかの重要な時期にさしかかります。理学療法士、整体師、ヨガなどの専門家が多数必要になってきます。

 新潟県中越地震のとき、小千谷市の保健師らが震災後3週間の時点で実施した被災者約1万7千人の健康状態調査では、234人が健康相談など何らかの支援が必要と判断されています。そのトップは「心のケア」で41%で最も多く、健康相談(27%)、医療機関の受診(25%)、食事・トイレなどの介助(18%)と続いています。自覚症状では不眠や憂うつ、意欲低下など精神的な症状が目立つという結果でした。

 つまり、この時期には、孤立した被災者がうつ状態にないかを確認することが必要です。周囲が復興し、家族と再会し、新たな生活の目途が立ち始めるなか、一部の方は焦燥と絶望を行き来しているかもしれません。こうした被災者の自殺を予防することも含め、避難所などでの声かけ、話し相手が求められるようになります。

 ただし、災害の記憶を引き出させるような話題は避けるべきです。災害のたびに重ねられている失敗だと私は思っていますが、「小児の被災者に災害の絵を描かせるのは禁忌」です。記憶を固着化し、PTSDへと誘導すると言われています。こうした治療法(ポスト・トラウマティック・プレイセラピー)が臨床心理士によって行われることはありますが、あくまでトラウマ化している小児に対する専門的なアプローチであることをご理解ください。

 小児については、忌まわしい記憶を忘却することが可能なので、ボランティアレベルでの支援介入では「思い出させないことが重要」なのです。メディアも含めて、災害の体験を子供に語らせたり、描かせたりしないようにしてください。

 高血圧などの慢性疾患をもつ中高年の方々は、明らかな症状を認めていなくとも、「血圧が高いのではないか」、「血糖値が不安定なのではないか」、「不整脈が出ているのではないか」といった、漠然とした健康不安を抱えながら家の片付けなどに追われていることが多いものです。避難所などを医師や看護師が定期的に訪れて「体調を見守ってさしあげる」ことは、震災後の様々な不安のなかで「ひとつの安心」を提供する活動となると思います。

 ただし、巡回診療で血圧などを測定して「ちょっと高いですね」と事実だけを伝えて、そのまま何もしないのであれば、単に「不安を助長する活動」にすぎませんね。私は、症状のない被災者の血圧や血糖を測定するのは反対です。基本的には健康不安への傾聴とアドバイスを行ない、とくに希望があれば血圧を測って差し上げればよいでしょう。

 避難所を対象とする巡回診療の重要な役割は、かかりつけの診療所や病院の再開を告げることだと思います。ですから、地元保健師らと連携しながら各医療機関の復興状況について情報収集をこまめに行い、医療が復興しつつあることの広報が必要な時期と言えるでしょう。地域の保健医療資源を把握し、今後の地域医療の担い手となるのは、やはり地元の医療機関です。被災地医療支援の最終的なゴールとは、患者さん一人一人を安心した気持ちのまま、かかりつけ医へと誘導することですから…。

■ 1ヶ月後以降

 震災から1ヶ月が経過すると、避難所も救護所も縮小されはじめるでしょう。そして、被災地の医療は緊急支援より地域主体へと引き継がれる段階となります。

 ただし、復興の足取りは弱者の歩幅というよりは、むしろ強者の論理でことが進められがちです。また、問題にフタをすることで、災害の現実から逃避しようとするメンタリティが働くことも多いと思います。実際、平時の介護現場ですら、家族が「うちは大丈夫」と言っていながら、奥の部屋で高齢者が厳しい状態に置かれていることが珍しくはないわけで…。

 過去の災害事例を振り返ると、行政は避難所の閉鎖を思いのほか早く進めるという印象が私にはあります。復興を急ぐ空気と追いつけないでいる被災者、とくに高齢者の方々を長期で関わるボランティアは代弁することができます。ただし、彼らを抱え込むのではなく、行政と連携して地域の医療や福祉のなかに居場所を探してさしあげるようにするべきです。少なくとも、地域医療の担い手となりえない外来ボランティアの手に委ねられるものではないですね。

 そして、とても大切なことですが、疎かになり後味を悪くしてしまう問題があります。それは、引き際の問題です。あらゆる支援活動は、開始する段階で支援終了の目安を設定しておく必要があります。それは、被災地の医療機関の復旧状況や避難所の人数などが指標となるかもしれませんね。

 ただ、被災地の状況は刻々と変化するため、ボランティアは自らの活動に耽溺せず、地域全体の状況について把握しておく必要があります。そのためにも、自治体や医師会などと連携をとりながら、地域の復旧状況を逐次確認し、また他の支援団体の動向にも目を配っておきたいものです。どのような援助も、長期化すると現地のシステムに組み込まれ、依存関係を生み出す恐れがあります。漫然と支援活動が継続しないように配慮すべきですね。

■ おわりに

 テレビ報道をみていると、専門的な災害医療を背景としたチームばかりが活躍しているように見えるかもしれません。瓦礫の下の医療であるとか、多数の負傷者を前にしたトリアージ技術といったイメージが先行しがちですね。でも、こうした専門性の高い災害医療とは被災直後(およそ72時間以内)の特殊な状況において求められるものです。国内外の被災地支援に関わった経験から申し上げますが、時間的にも空間的にも圧倒的に求められていたのは、被災地の病院・診療所において平時と変わらぬプライマリケア・サービスを安定して提供できるよう支援する活動でした。

 支援を躊躇する理由はありません。あなたにもできることがあるはずです。ただ、大切なことは現地のニーズをきっちりつかみ、「支援したい」という自らのニーズに溺れないことですね。ここで私が書いたことも、イメージの一助に過ぎないことをご理解ください(あらゆる被災地は刻々と変化しながら助けを求めています)。おおよその震災医療支援の流れをつかんでいただいたら、まずは友人のつてなどを利用して、あるいは支援活動団体などに申し込んで、あなたならではの支援をはじめていただけることを期待しています。


さらなる理解のために(参考となる文献):
1) 田中良樹:被災現地の災害医療と避難所医療.治療 84(4): 1286-1291, 2002. <神戸震災の経験から災害時の医療ニーズについて整理されている>
2) 山本義久:大災害時の情報収集と医療.治療 84(4): 1317-1320, 2002. <大災害時の医療情報収集の手段としてインターネットの有効性を紹介している>
3) 石井昇:災害医学教育の現状と課題.救急医学 25(1): 85-90, 2001. <わが国の災害医学教育の現状と問題点を指摘し、具体的な教育方法について提言している>
4) The Sphere Project. 2004/アジア福祉教育財団難民事業本部:スフィア・プロジェクト-人道憲章と災害援助に関する最低基準.アジア福祉教育財団, 2004. <多くの援助機関の経験に基づき作成された災害援助の国際的イニシアチブ>
5) 高山義浩 : 新潟中越地震におけるプライマリ・ケア支援活動 . Journal of Integrated Medicine 15(8) : 662-664, 2005. <筆者による震災地域における医療支援活動についての報告と検討>

高山義浩(沖縄県立中部病院)

2011年3月16日

初期の段階で被災地に入る際に感電を予防する4つの約束

初期の段階で被災地に入る際に感電を予防する4つの約束

 日本ではあまり話題にはならないようですが、諸外国では大きな課題のようです。日本でも被災後すぐには注意が必要です。

1.絶対に、切断された電線に触らない。

2.水溜りの中に切断された電線があるときは、車で入らない。
もし、送電線があなたの乗った車に触れてしまったら、乗ったまま、送電線から離れます。もし、エンジンが止まってしまったら、車のキーをそのままにして離れます。また、その車や電線に触らないよう、周囲の人に警告します。
その後、電力会社に電話するか、連絡してもらうよう周囲の人に頼みます。電力会社の専門家以外には、決してあなたの車(乗り物)に触れないよう、周知します。

3.電化製品が、濡れたり、水につかったら直ちに通電を止めます。
1)メインのブレーカーから電気を切ります。ただし、ブレーカーに近づくために貯まった水に入ったりしてはいけません。
2) 電化製品の電源のスイッチに触れません。
3)停電から回復したときに、配線が切れていたり、火花が飛び散ったり、何かが燃えたり、こげた臭いがするようなら、メインブレーカーを直ちにオフにして下さい。

4. 感電した人(疑いも含む)に絶対に触れません。
触れるとあなたが感電します。
1)可能であれば、周囲の電源をオフにしてください。オフにできない場合は、段ボール、プラスチック、木など電気を通さないものを間に挟んで、あなたと感電した人を電源から遠ざけてください。
2)電気から感電した人を離せたら、呼吸と脈拍を確認してください。心拍が止まっていたり、呼吸が止まりそうに遅く、浅くなっている場合は、すぐに心臓マッサージを開始してください。呼吸していて、失神、蒼白、ショック兆候がみられる場合は、横に寝かせて身体と足を上げて血流が頭に行くようにします。
3)やけどした皮膚に直接触れたり、水庖を破ったり、衣服を脱がせたりしません。

高原しおん JR東日本健康推進センター
橋口克頼 パナソニック
伊藤裕康 三菱樹脂
河津雄一郎 平和堂
和田耕治

2011年3月14日

寒さのなかで作業する人が自分を守るために知っておきたい10のポイント

1) 食事をきちんと摂ります
作業には多くのエネルギーが必要となるため、脂肪の多い食事でカロリーを確保します。血糖値を確保するために充分な炭水化物も摂取します。

2)
水分を十分に摂ります
トイレに行きたくないという思いから水分を制限したくなりますが、寒冷環境では、喉の渇きが抑制されるため、頻繁に温かい水分を摂り、脱水を予防します。ただし、アルコールやカフェイン、ニコチンは、血管拡張を誘発し、利尿が促進されるため望ましくないです。

3)
衣服は重ね着をして保温に努めます
体温を逃がさないということが保温にとって基本です。保温性の高い下着などを活用します。汗をかいたり、水で衣服が濡れたりしたときは、体温が奪われるため、乾いている衣服に着替えます。暑いと感じたときは、上着で調整します。子供や高齢者は体温を失いやすいので、成人以上に保温に努めます。

4)
手、足や目などの保護します
指先やつま先は冷えやすいため、手袋、靴下を着用します。紫外線とグレアから目を保護するためにサングラスなどを着用します。ただし、金属製のメガネ、腕時計は皮膚温を低下させやすいため、着用を避けます。

5)
こまめに休憩を取ります
 屋外での作業時間の目安は、気温が-10
~-25なら50分程度とし、温かい部屋で少なくとも30分の休憩時間を確保します。これは、寒冷環境の作業に習熟し、適応した健康な成人男子が、ほぼ無風の状態で作業する際の基準です。風がある状態では、予想以上に体温が低下します。0℃以下でもこまめに休憩をとります。
循環器系に病気がある人や高齢者の場合は衣服の防寒対策をさらに行い、作業時間を短くするといった配慮が必要です。

6)
凍傷を予防します
冷えによる手指などの痛みやしびれは、作業が非効率になるだけでなく、凍傷に至る危険信号です。感覚が麻痺していることもあるので、ゆっくり暖めます。

7)
複数人で行動します
複数人で行動し、互いの安全を確認します。

8)
移動する際には安全を確保します
雪のある場所を歩いて移動するのは怪我の危険性がある上、体温を奪われやすいので、避けます。歩いてある程度の距離を移動する際には、目的地や到着予定時間を誰かに伝えます。予定時間を過ぎても到着していない場合は、警察などに通報します。

9)
屋内の一酸化炭素中毒を防止します
石油ストーブは換気ができる状態で使用する。また、屋内で発電機、グリルなどを絶対に使用しません。換気を行いつつも、ドアや窓の不要な開閉を避け、室内の熱を逃がさないようにします。隙間があればタオルなどでふさぎます。

10)
屋内火災を予防します
破損した電気コードは使用しません。延長コードも極力使用しません。暖房機器の近くに子供を一人にしません。
参考資料
ILO
産業安全保健エンサイクロペディア(第4版)
日本産業衛生学会 許容濃度の基準(2010年)
労働安全ハンドブック(第2版)
担当:奈良井理恵(産業医大衛生学)、和田耕治

洪水の復旧作業には様々な危険が伴うことを認識しましょう 知っておきたい13のこと とても大事


洪水の復旧作業には様々な危険が伴うことを認識しましょう 


復旧に関わる人や外部からのボランティアの方は経験や体力に差があることを認識し、お互いに安全が確保できるようにすることが求められます。
復旧作業は中長期的に続くことを認識し、精神面、身体面の障害を予防しましょう。


1.感電に注意しましょう
(1)洪水時、近くに水がある場所で高電圧の電気機器があると、感電のおそれがあり、危険です。主電源(ブレーカー等)を切り、その後は専門家による安全の確認がなされるまで、電源を入れないようにしましょう。
(2)発電機を使用する場合、起動する前に電源を入れておくと感電の恐れがあるので、電源を切っておきましょう。
(3)切れた電線の付近の作業は感電の危険性が高いので、急務でなければ、専門家に任せましょう。


2.一酸化炭素中毒を未然に防ぎましょう
(解説)洪水時の復旧活動では発電機を使用する機会が多いですが、これらの機器は一酸化炭素を発生させる恐れがあります。一酸化炭素は吸引することで致死的な一酸化炭素中毒を引き起こします。発電機を含む、ガソリンを使用する機器は必ず屋外で用いるようにしましょう。


3.筋骨格系の障害を予防しましょう
(解説)洪水時の復旧作業は重量物の運搬作業が多く、手、腰、膝、肩を痛める危険があります。特に重量物の運搬では、腰痛に対する注意が必要で、こうした事を未然に防ぐため、重量物は2人以上で協力して運搬すること。可能であれば運搬用機械を用いるようにしましょう。


4.しっかりした防寒を行いましょう
(解説)冷たい水に浸かっての作業は低体温を引き起こします。低体温を予防するためには、ゴム長靴、しっかりした防寒着の着用が推奨されます。また、湿った着衣は体温を奪うため、気を付けましょう。人目のあるところで作業をする、水面から離れて、しっかり休息をとるといった事も重要です。


5.重機の取り扱いは専門家に依頼しましょう
(解説)不慣れな人、資格を持たない人が重機を取り扱うことは、二次災害につながる恐れがあります。重機の取り扱いは必ず専門家に依頼しましょう。


6.周囲の地盤、建物の安全性を過信しないようにしましょう
(解説)洪水によって、地盤、道路、建物は強度が弱っている可能性があり、一見、安全に見えても、崩壊の恐れがあります。むやみに立ち入らないようにしましょう。


7.有害物質に注意しましょう
(解説)洪水時に溢れた水には、タンク、ドラム、パイプなどから漏れ出た農薬や有機溶剤などが含まれている可能性があります。内容物のわからない容器にむやみに触れないようにしましょう。もし、内容物に触れたら、しっかりと洗浄し、何らかの症状が出た場合は、早急に医療従事者に連絡しましょう。


8.火災に注意しましょう
(解説)洪水が起きた後は、消防用水の不足などから、火災が起きた際に十分な消火活動ができない可能性があります。復旧作業を行う際は、できる限り、消火器などを準備したうえで行いましょう。


9.溺水に注意しましょう
(解説)泳力に自信がある人でも、災害時の水たまりなどの中では溺水する恐れがあります。水がある場では、一人作業を避け、ライフジャケットを着用しましょう。また、乗り物の中で、脱出できずに溺水する可能性もあります。深さのわからない場所では、車や重機を運転しないようにしましょう。


10.軽微なけがもしっかり初療を行いましょう
(解説)軽微なけがや、やけどでも、汚染された水に暴露されると感染の危険があります。すべての傷をきれいな水とせっけんで洗った上で、早期に医療従事者に相談しましょう。破傷風の予防接種は特に重要です。


11.十分な保護具を準備しましょう
(解説)二次災害を防ぐため、保護具の着用を心がけましょう。ヘルメット、ゴーグル、手袋、安全靴、耳栓など。


12.閉鎖空間での作業の危険性を認識しましょう
(解説)ボイラー、炉、パイプライン、ピット、浄化槽、下水槽、貯蔵タンクなどの閉鎖空間で作業をする際にはその危険性を認識する必要があります。出入り口が限られていること、換気が悪いこと、スペースが狭いことなどが挙げられます。有害ガスの充満による窒息、ガス爆発なども考えられるので、不用意に近づかないようにしましょう。作業の必要があれば、専門家に依頼しましょう。


13.精神、身体面の疲労に気を付けましょう
(解説)災害発生時は、精神的な負担と身体的な負担が合わさり、ストレスに起因する疾患やけがの発症の可能性が高まります。家族、近隣住民と支えあい、可能であれば、精神衛生の専門家と相談することがこれらの予防につながります。作業の優先順位をつける事、しっかりと休養をとることなども重要です。




謝辞:産業医科大学 産業医実務研修センター尾土井 悠先生にご協力いただきました。

2011年3月13日

作業に携わる方、そして被災者に破傷風のワクチンを お忘れなく!!

作業に携わる方や被災者には破傷風のワクチンが必要です。


地震、破傷風で検索するとたくさんの情報がえられます。
中越地震でも被災者に破傷風患者がでたようです。


こちらは感染症情報センターのサイトからの引用です。


「さらに10年毎に追加接種を行えば、防御抗体レベル以上の血中抗体価を維持する ことができると考えられている。しかし、定期予防接種の対象者である若齢者ではワクチンの接種率は70%を上回る反面、成人をはじめとする非対象者では、事故などの特別な理由がなけれ ば破傷風トキソイドワクチンを接種する機会は殆どないので、成人の多くは十分な破傷風抗体を保有していない状況である。」


これから救援に行かれる方は過去10年の間に接種がなければ破傷風ワクチンの接種と破傷風ワクチンの持参は必要です。


http://www.who.int/diseasecontrol_emergencies/publications/haiti_earthquake_20100118.pdf
http://www.who.int/features/qa/04/en/index.html


参考:感染症研究所.感染症情報センターのサイト
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_15/k02_15.html

カトリーナの教訓 時間がない今こそ過去の教訓に学ぶ

http://www.doh.wa.gov/ehsphl/epitrends/05-epitrends/05-09-epitrends.pdf


関連するところだけご紹介


1.食品
電気のない地域(冷凍も調理もできない)への食品の選択を
運搬ができないことで食べられなくなるおそれがある


2.医療ニーズの把握
トリアージを行い、インスリンの必要な人の把握などを直ちに行う
保健所などの公衆衛生機関は避難所の病気や環境のサーベイランスを
避難所における下痢、風邪、皮膚病などがもっとも起こりうるが予防ができる
2人以上の結核の発症などがあれば直ちに対応する


3.一酸化炭素
一酸化炭素の曝露がジェネレーター、キャンプストーブ、炭などを用いる場で起こりうる。
こうした機械は地下、車庫、また外気を取り入れる窓の近くにおいてはならない


4.潜在的な病気のアウトブレイク
下痢のアウトブレイクに注意
手を洗う、安全な食事の提供は必要であるが、災害の直後には難しい


5.けが
けがをした場合や作業に携わる人は破傷風の予防接種をしましょう(日本はしていますが
10年接種をしていないなら小さな傷でも追加接種をした方が良いということだと考えます)


6.ワクチン接種
災害救助に向かう人は破傷風と、ジフテリアのワクチン接種をすべきである
災害救助をする人でB型肝炎ワクチン接種をしていない人で体液に触れる可能性のある人はB型ワクチンを接種しましょう。

2011年3月12日

地震後の緊急の創傷ケア


地震の際と後は外傷のリスクが高いです。応急手当は小さい傷を回復させ、感染の可能性を減らすことができます。
破傷風はけがをしている人の潜在的な健康の脅威です。

もし次のような症状があればすぐに治療を受けましょう
・傷の中に異物がある
・感染するリスクのあるけが(犬にかまれた。泥のついたものが刺さった)
・古い傷が感染してきている(痛みの増加、腫脹、発赤、浸出液増加、または発熱)

小さな傷を治療する
・傷のあるところに装飾品や衣料品が触れないようにする
・石けんときれいな水が手に入るなら十分に洗います。
・指で傷を触れないようにする (可能な場合は、使い捨てのラテックス手袋を使用)。
・出血が続く場合は、しっかりと押さえる。可能であれば清潔な布またはガーゼを使用する
・止血した後は、傷をきれいにする
・汚れた傷、刺された、穿刺された傷は開いたままにします。正しくきれいにされない傷は感染します。
・痛み止めを必要に応じて使用します。

その他の考慮事項
・すべての傷が感染しえます。
・挫傷は切り傷よりも感染する傾向があります。
・海水などに触れた傷は感染するリスクが高まります
・土と砂との接触での傷の感染の可能性が増加します
・穿刺傷は衣類や汚れが入り感染しやすくなります。
・破傷風のワクチンを最近接種していない場合にはワクチン接種を相談しましょう。

津波の後の復旧作業における労働者の安全と健康を守る10の点~2004年インド洋津波に学ぶ~

津波の後の復旧に関わる労働者やボランティアの方は安全と健康を守るための対策を知り、実行する必要があります。作業者の中には経験がない人もいるので、互いに安全を確保しながら作業を進めます。

1.感電を予防します
自然災害の後に感電が起こりえます。感電を防止するために、清掃活動に参加する人は、次の手順を実行することが求められます。
電気回路や電気機器の近くに水がある場合には、メインのブレーカーまたはヒューズパネルの電源を切ります。電気は、専門の電気技師の確認が終わるまで入れません。もし電源がオフになっていることが確認されない場合には水のあるところに入らない、また地面のぬれているところで電気機器をさわらないようにします。絶対に切れた電線に触れないようにします。
電線が切れた地域での掃除などをする場合には、電気会社に連絡し、送電の停止などを行います。頭上の送電線の近くではしごなどを動かす際には特に注意が必要で、不注意な接触がないように細心の注意を払います。

2.一酸化炭素中毒を予防します
洪水の後の片付けには、ガソリンまたはディーゼルポンプ、発電機などを使用することがあります。これらの装置は、無色、無臭で致命的な「一酸化炭素」を発生するため、こうしたガソリンを用いる機械は屋外で使用し、屋内に持ち込まないようにします。

3.筋骨格系障害を予防します
片付けの作業により、手、腰、膝、肩などに深刻な筋骨格の障害を起こすことがあります。泥などを手で運んだり、建材を運んだりするときは特に腰痛への注意が必要です。こうした障害を予防するために2人以上のチームを使い、一人あたり20Kg以上のものを運ぶのは避け、機械を用います。

4.寒さ・暑さ対策をします
24以下の水につかったり、働いたりすると体の熱が失われ、低体温になります。低体温のリスクを減らすためにもゴムのブーツ、暖かい洋服、単独作業をしない、水の外に頻回に出る、可能な限り乾いた洋服に着替えるなどします。
 また、暑い季節には熱中症の対策も必要です。

5.地盤の不安定性を考慮します
洪水の水は、歩道、駐車場、道路などを破壊します。水によって破壊された建物や地面が安定していることを期待してはいけません。津波に持ちこたえた建物も倒壊の危険性があります。洪水で破壊された建物は専門家による確認の前に中や周りで働いてはいけません。もし建物が動いたり、変な音がしたらすぐに立ち退きます。また余震による倒壊にも注意します。

6.危険物を管理します
洪水の水には、タンク、ドラム、パイプなどからの重油、農薬などが含まれている可能性があります。消防署や自治体などとの連絡なしに不明なコンテナを移動しません。
潜在的に汚染された可能性のある地域での作業には、皮膚への接触や蒸気の吸入をさけるための適切な防護服を着用します。農薬やその他の有害な化学物質にさらされた可能性のある皮膚は頻回にしっかりと洗います。

7.溺水に注意します
たまった水に入ると泳げたとしてもおぼれる可能性があります。車の中にいる人が溺水する可能性も高いです。深さが不明の場所に車や重機で入らないようにします。単独作業の禁止や洪水の水がたまった近くで作業をする際にはライフジャケットを着用します。

8.保護具の装着と応急処置をします
浸水した地域での作業では、次の保護具が必要になります。
ヘルメット
ゴーグル
手袋
安全靴、防水ブーツ
チェーンソー、ブルドーザー、送風機、乾燥機などの機械からの騒音は、作業者の耳鳴りや聴覚障害をおこします。お互いに叫ばないと伝わらない場所では耳栓をします。
 また保護具をしていたとしてもけがややけどをすることがあります。汚染された水に曝露されると大変危険です。すべてのきずはきれいな水で洗いましょう。また、作業中の切創に対して破傷風の予防接種を確実にします。


9.閉鎖空間での作業には十分に注意をします
ボイラー、パイプライン、ピット、浄化槽、下水タンクなどの閉鎖空間では有毒ガスの発生、酸欠、または爆発の可能性があり死亡事故につながる可能性があります。多くの有毒ガスや蒸気は目に見えず、またにおいもないので、安全かどうかを感覚で判断してはなりません。
閉鎖空間には十分なトレーニングを積んでいなければ絶対に入ってはいけません。もし閉鎖空間に入る必要がありトレーニングを積んでいなければ消防に相談しましょう。
閉鎖空間とは、入口または出口が限られた範囲しかあいていない、不十分な自然換気、連続した作業のためのスペースが想定されていないといった場所が該当します。

10.ストレス、長時間労働、疲労を予防します
長時間の労働や、家が破壊されたり仕事を失ったりすることで非常に大きなストレスを感じます。このようなストレスにさらされている作業者はけがや感情的な事件がおこりやすくなり、またストレスに起因する疾患を発症しやすくなります。家族、近所の人、メンタルヘルスの専門家による支援はストレスに関連する疾患などの予防につながります。
疲労を予防するために、復旧や清掃の優先順位を設定し(日や週単位で)、身体的な疲弊を避けます。また、睡眠を十分にとり、休息をこまめにとり、疲弊しないようにします。


和田耕治