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2011年4月19日

東日本大震災の復旧・復興に求められる働く人の健康を守る産業保健活動


和田耕治(北里大学医学部公衆衛生学講師)


 東日本大震災の復旧・復興に関わる方々は様々な危険有害要因にさらされる可能性があり産業保健の観点からの対応が求められる。
 災害の初期には、自衛隊や消防隊などある程度訓練を受けた人が対応にあたるが、今後被災者自身が片付けなどを行ったり、またボランティア、民間の業者の労働者などの関わりが増す。こうした人々を危険有害要因から組織的に守り、二次災害を予防する必要がある。
 危険有害要因としては次のようなものが挙げられる。
 1.生物学的要因
 感染症対策としては、公衆衛生では避難所での感染対策(胃腸炎、インフルエンザなど)が主と考えられがちであるが、その他に被災地においては、がれきに含まれるレジオネラ、作業によって山林などに入ることによるツツガムシ病、そしてけがによる破傷風といった感染症から労働者やボランティアを守る必要がある。
 2.化学的要因
 様々な化学物質が津波によって流されて被災地に拡散しており、これらの曝露から労働者やボランティアを守る必要がある。また、がれきの片付けによって発生する粉じんや、アスベストは阪神・淡路大震災やワールドトレードセンターのテロでも課題となっており喫緊の課題である。
 3.物理的要因
 原発事故による放射線への対応、そして、これまでは寒さ対策であったが、今後は暑さ対策が必要である。さらに、腰痛など筋骨格系の予防や、けがの予防が必要である。
 4.心理社会的要因
 作業者の疲労や過重労働、過酷な労働環境、そして被災者のストレスを受け止めることによるストレスなどへの対応が求められる。
 5.健康管理
 作業者としての派遣やボランティアとして参加にあたっては十分な健康が保持されているかを確認し、持病などがある場合には配慮をする必要がある。
 これらの要因に対してすでに様々な災害や産業現場での教訓や経験が産業保健には蓄積されており、今こそ実践に移す時である。
 しかしながら、様々な課題があるが2つの課題を強調する。
 1つ目の課題として、産業保健の知識と実践をどのように現場に反映させるかである。ボランティア組織や、民間業者などは数多くあり、それらのすべての情報を流し、さらにすべての人に実践していただくことは容易ではない。インターネットなどの活用はその解決の糸口にはなりうる。しかし、情報の入手を容易にし、かつ分かりやすくした情報を豊富に、そして様々なチャネルで産業保健の専門家や行政が流すことが求められる。また、行政や業界団体などが労働者の健康を守る産業保健の視点を常に意識するための仕組みが必要である。
 2つ目の課題としては、「リスクに応じた対策」ということが現場では容易ではないことである。人は一般的に「小さなリスクは大きく感じ、大きなリスクは小さく感じる」傾向がある。放射線でも、粉じん対策でもリスクに応じたバランスの良い対策が必要であるが、実際に現場での具体的な対策に関する判断には「応用」が必要であり、また過剰な対策を予防するには専門家の関与が必要となる。こうしたことからもリスクに応じた対策の具体例を多く提供しつつ、産業保健の専門家ができるだけ関わることが課題の解決になると考えている。
 産業保健の視点は復旧・復興になくてはならないものであり、我々産業保健の専門家への期待は大きく、それに応えなければならない。また、経験したことのない新たな課題に対しては協力して解決をしていかなければならない。

2011年3月30日

ボランティア活動で病気やけがをしないために知っておきたい4つのこと

1.ボランティアに参加する前に
 1)体調は万全ですか?
 体調が悪い時、特に発熱、下痢、嘔吐、咳等が見られる時は、被災地に入るのを控えましょう。被災地の外から来たボランティアが、被災地に感染症を拡げてしまうことがよくあります。
 現地入りする前に、破傷風、インフルエンザ、麻疹のワクチンを接種しているか確認し、必要に応じて追加接種をしましょう。また、医療に関わる人はB型肝炎ワクチンの接種が必要です。

 2)ボランティア組織に入りましょう
 被災地のボランティア組織などに登録して、現地のルールに従って行動しましょう。組織で動くことで、チームで作業することができ、お互いに安全を確認したり、シフトを組んで適切な休憩をとったりすることができます。

 3)ボランティア保険に入りましょう
 被災地は危険なところが多いですから、ケガをしたり病気になったりすることも考えられますので、できれば保険に入っておきましょう。ボランティア団体に所属している場合は、団体として保険に入っている可能性がありますが(念のため確認しておいてください)、個人としても契約することができます。最寄りの社会福祉協議会が窓口ですので、出発する前に入っておきましょう。掛け金は年間数百円ですが、保証される手術保険金でも数十万円までと少額ですので、普段から入っている傷害保険と併用することが一般的なようです。自分が普段から入っている保険内容も確認しておきましょう。


2.復旧作業に関わるときは、自分がケガや病気にならないように
1)けが
 動いている重機の近くは危険なので、近づいてはいけません。
 小さな傷口でも、泥や汚染された水にさらされると、化膿してしまったり、破傷風のような命に関わる病気にかかってしまったりすることがあります。
 もしけがをしてしまったら、すぐにきれいな水と石鹸で洗い流して、破傷風予防の処置が必要かどうか、医師に相談してください。破傷風は発症した場合には20%~50%が亡くなってしまう致死率の高い病気ですが、今回の震災でも、すでに破傷風にかかった人が報告されています。

2)腰痛
 重いものを一人で持ち上げると、腰痛を引きおこすことがあります。おおむね22kg以上の重量物を運ぶときは、無理をせず2人以上で作業をするようにしましょう。

3)酸欠・硫化水素中毒
 津波で海水をかぶった建物の中は、十分な換気をすることができない場合があります。海水が入ってから長時間放置されていると、貝などが大量発生したり、そこにあるものが腐ったり、室内に大量のカビが増殖していたりすることがあります。そうすると、微生物が室内の酸素を消費してしまい、酸素欠乏症になる危険性が高くなります。酸素濃度が極端に低い空気を吸うと、一回呼吸するだけで酸欠で即死してしまうことがあり、非常に危険です。また、いろいろなものが腐るときに有毒な硫化水素が発生してしまうこともあります。大量の硫化水素を吸入すると、短時間であっても命に関わることがあります。
 海水がかぶった閉鎖空間、建物の中は、非常に危険ですので、立ち入る際には十分な換気が確保できるかを確認し、できるだけ消防や自衛隊などに相談しましょう。また、酸欠・硫化水素中毒のおそれがある場所に倒れた人がいても、救助しようとして無防備に飛び込むとさらに助けに入った人が酸欠で被災するので大変危険です。必ず、消防や自衛隊に助けを求めましょう。

4)有害化学物質による中毒
 災害現場には、石油、家庭用の薬品、農薬など、いろいろな化学物質が漏れ出しています。一部は混ざって化学反応をおこし、想像もつかないような物質が発生しているかもしれません。また、ゴミを野焼きにすると、有害な煙が発生する可能性もあります。少なくとも、変なにおいがするものには近づかないようにしましょう。
 ただし、有害化学物質の中には、一酸化炭素のように無味無臭のものも少なくありませんので注意が必要です。気分が悪くなったら、すぐに新鮮な空気のあるところまで逃げ出しましょう

5)脱水・栄養
 トイレ事情が悪いと、水分摂取を控えてしまう人がいますが、十分に水分を摂らないと、脱水症になってしまうことがあります。また、体を動かすには大量のエネルギーが必要です。十分な水分・栄養摂取(特に炭水化物、1食につき1000kcalを目安に)を心がけましょう。


3.保護具の使用を忘れずに
 作業時は必要に応じて、長袖・長ズボン、ヘルメット、ゴーグル、ゴム手袋、防水長靴(つま先と中敷きが金属で補強された安全靴)、保護マスクなどを着用してください。手袋は、内側はニトリル製などの耐切創手袋、外側はニトリルかラテックスの使い捨て(4~8mmの厚さ)と、二重にすると有効です。軍手では不十分です。


4.避難所での生活支援に関わるときは、体調管理に気をつけましょう
十分に休養と栄養をとって体調管理に努めてください。作業後や食事前、トイレの後は、流水と石鹸で手洗いをしましょう。清潔な水が確保できない場合は、速乾性消毒アルコールを使用しましょう。
 食中毒を予防するために、食事の調理や配膳の担当者は、体調の異変時(発熱、下痢、はきけ、手指のけがなど)には速やかに申告して、交代してもらいましょう。
 咳が出る時は、咳エチケット(マスクをする、ティッシュで口と鼻を覆う)を守りましょう。万が一体調を崩した場合は、迷わず離脱する勇気も大切です。

参考:http://www.cdc.gov/niosh/topics/emres/pe-workers.html
担当:松井亜樹、末廣有希子、河津雄一郎、和田耕治

2011年3月21日

避難所のインフルエンザ対策6つのポイント 

 避難所は集団生活の場であり、また体力が弱っている方々が少なくないと思います。今後、避難所などでインフルエンザの集団発生が多発してくる可能性が高いと思われます。なお、被災地の状況は地域ごとに刻々と変化していると思います。あくまでヒントのひとつとして、現場の状況をご確認いただきながら対策いただければと思います。

1)持ち込ませない

 避難所のインフルエンザ対策において、まず大切なことは「ウイルスを持ち込まない」ということです。言うまでもなく、発熱したボランティアはもちろん、いくつもの避難所を巡回するようなボランティアも、不必要に避難所内に入らないことだと思います。避難所の各エリアを個人の家と同じような感覚であつかい、その隔離性を維持することはプライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も有効だろうと私は察します。

2)流行を早めに察知する

 早期発見、早期対応が感染対策の基本です。そこで、避難所のなかで感染症サーベイランスを始めるのがよいかもしれません。具体的には、毎朝、発熱がある人、咳や咽頭痛がある人、下痢をしている人を数え、集計を続けるというものです。これは医療者でなくても可能です。これにより、感染症アウトブレイクを早期に感知し、必要な施策を早めにとることが可能になるかもしれません。

3)環境の整備

 避難所内の換気も必要ですが、病気の方、ご高齢の方に配慮しつつ、寒冷に十分に配慮して実施してください。インフルエンザに関する限り、頻回の換気は不要だと思います。室内の密度にもよりますが、1日2回程度でよいのではないでしょうか? 室内をあまり乾燥させることは、飛沫を飛散させやすくするので好ましくないという分析もあります。

 共用するトイレでの接触感染は考慮すべき問題かもしれません。トイレの後には、できるだけ手指を流水・石けんで洗うよう呼び掛けたいところですが、現状では水が極めて貴重であるかもしれません。支援物資に擦り込み式エタノール剤があるといいですね。これは支援する側が心にとめたいニーズのひとつです。

4)症状のある方への対応

 インフルエンザに限らず、風邪を含む呼吸器疾患が流行している場合には、症状のある方がマスクを着用することを徹底させたいところです。マスクがない場合には、周囲の人と2メートル以上の間隔を空けるか、もしくは衝立を設けて隔離することが感染拡大防止になるでしょう。このような対応がとれるのであれば、必ずしも感染者の個室隔離は不要だと私は思います。

 とくにインフルエンザ様症状の重い方については、関係者は「避難所では診れない」と行政などに強く訴えられた方がよいかと思います。この方面については「がんばらない」ということですね。可能な限り、入院対応を含む避難所外での療養が原則でしょう。これがご本人のためであり、感染対策でもあると思います。

5)ワクチンの接種

 まだ避難所内でインフルエンザが流行していないのであれば、ワクチンの接種は可能であれば今から考えておくべきことかと思います。とくに基礎疾患のある方々については、今からワクチンを接種しておいた方がよいかもしれません。

 しかし、すでに流行が始まっている避難所では、ワクチン接種を開始しても意味がないかもしれません。この場合は、基礎疾患のある方、妊婦、幼児など重症化リスクがある方については、タミフルの予防投与を選択すべきかもしれません。

 すでに厚生労働省は行政備蓄していたタミフルの放出を決定しています。ある程度、タミフルは潤沢になると考えられるので、予防投与についても積極的に選択できると私は考えています。

6)人口密度を減らす

 言うまでもなくインフルエンザは、集団で生活しているような空間で広がりやすいものです。その意味で、避難所の人口密度を減らすことは、もっとも良い被災地の感染対策だと私は思います。いまの状況では、なかなか大変だと思いますが、目指すべき方向性なのかもしれません。私たち被災地外の市民としては、積極的に被災者の疎開を受け入れるよう呼び掛けたいと思います。

担当 沖縄県立中部病院 高山義浩

2011年3月19日

被災地に対する医療支援の考え方 

 報道では、津波が直撃した高度被災地の映像が繰り返し流されています。しかし、壊滅的な被害を受けた地域のみならず、その周辺では、多くの医療機関が通常の診療体制を維持できずに苦しんでいると思います。

 専門性の高い支援チームによる緊急援助だけが、いま被災地で求められている活動ではありません。医師や看護師のみならず、薬剤師、栄養士、一般のボランティアなどが必要とされているはずです。

 ここでは、災害後の時系列にしながら、どのような被災地の医療支援が求められているか、求められることになるか、私の個人的な経験に基づき考えてみたいと思います。

 なお、憶測で支援活動を開始するのは厳に慎みましょう! かならず現地の医療機関、ボランティアセンター、地域医師会、行政機関に問い合わせ、ニーズがあるかの確認をしてください。そして、支援者は交通手段、および衣食住について自己完結できる装備で現地入りすることが原則です。決して、現地のリソースを浪費しないこと。かつ、ヒットアンドアウェー方式、つまり支援を終了したら速やかに被災地を離れることが基本です。

■ 発生直後から5日後まで

 災害直後の超急性期においては、現地病院、診療所の機能を破綻させないための物理的支援が求められます。最低限の医療機器を動かす発電機、夜間での診療を可能とする小型投光機があれば、日暮れた後でも、負傷者が殺到する救急外来を維持することができます。おそらく5日目までは外科系の患者がメインだと思います。つまり、ひたすら縫合できる医者が必要です。

 また、入院患者を抱える医療機関では、病院食を持続的に提供できるかどうかが存続のカギとなります。ライフラインが断絶している場合には、飲料水、そしてプロパンガスとコンロにより基本的な調理ができるような支援が必要です。

 こうした状況では栄養士の知識が必要です。ありあわせの支援食材で、入院患者ごとの病院食(たとえば低カリウム食、潰瘍食など)を工夫しなければならないからです。多くの支援食材には、保存性を優先した塩分が高めのものが多いようです。肝障害、心不全、腎不全などの患者むけ特殊食材については、ピストン輸送で支援することも考えてください。

 透析患者や糖尿病、心不全などの重症患者については、被災地では管理できないかもしれません。こうした診療が可能な医療機関への転送も検討すべきだと思います。

■ 6日後から14日後まで

 6日を経過すると、続々と医療支援チームが到着しはじめ、各自治体行政の災害対策本部ですら、医療支援の全体像がつかめなくなります。発生当初とは異なる意味での混乱がはじまります。

 日本赤十字社(以下、日赤)らを中心とした大手の医療支援チームが集合し、地元の医師らと活動状況を交換して、受診者数の動向や症例提示を行うようになるでしょう。このころになると遊軍型の支援活動は、ときに混乱を助長する可能性があるので注意してください。ある程度、あなたが継続的かつ組織的に活動することができているのなら、独自の立場で支援者会議に参加することも可能ですが、地元の医療機関や大手の支援団体の一部になるよう心がけるべきです。あなたの活動を行政やボランティアセンターが把握していることを常に確認してください。

 各地で、日赤が被災地医療において指導的な役割を果たしていることに違和感を持たれる方もいるかもしれません。日赤は「日本赤十字社法」という法的根拠があって行動しており、同法33条に「国の救護に関する業務の委託」というものがあり、非常災害時における国の行う救護に関する業務が日赤に委託できることになっています。あるいは「災害救助法」では、「政府は日本赤十字社に、政府の指揮監督の下に、救助に関し地方公共団体以外の団体又は個人がする協力の連絡調整を行わせることができる」(第32条の2第2項)とされています。つまり、行政システムの空白期間には、日赤が業務を代行したり、施設の整備をすすめることが認められているのですね。もちろん、日赤が支弁した費用を国が補償することにもなっています。

 この他、日赤は「災害対策基本法」で指定公共機関とされており、国の災害救護事業の一部となっています。日赤が指揮を始めたら、活躍の場を「奪われた」と感じて反発するのではなく(そういう陣取り合戦を好む団体が少なくありません)、日赤を核とした緊急医療支援体制として、地元医師会等も参加したチームワークを形成するよう心がけてください。

 さて、この頃より被災地の医療機関には、定期薬を内服できずにいた慢性疾患の患者が増悪して運ばれるようになります。つまり、内科系の医師にニーズがシフトします。主な疾患は、高齢者の脱水や肺炎、小児や成人の喘息発作、糖尿病や心不全の急性増悪などが予測されます。この傾向は、地域の医療機関が復興し、主治医による定期外来診療が再開されるまで継続します。

 さらに、外傷患者の創部感染による全身状態の悪化も多発しはじめます。人手も資材も不十分な被災地の医療機関では管理できないので、診療が可能な医療機関への転送が必要です。事前に、医療機関ごとに後方支援病院を決定しておいた方がよいかもしれません。

 車中泊を続けている被災者(ときにボランティア)が、長時間同じ姿勢で寝続けることによるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)を発症しはじめます。姿勢のほかにエコノミークラス症候群を引き起こしやすい環境として、乾燥と寒冷があります。つまり、いまの被災地は発症の好条件と言わざるをえません。

 エコノミークラス症候群により静脈内に形成された血栓が飛んで肺塞栓を引き起こすと、呼吸困難と胸痛などの症状が出ます。さらに進行すると、血圧低下、意識消失などを生じ、重症な場合には、そのまま心肺停止します。非常に怖ろしい疾患であり、大切なことは予防です。乾燥を防止し、水分を補給し、休息時にも適度な運動を行うこと。そして、下肢の静脈内に血栓がないかを早めに診断してもらうこと。つまり、この時期には、ポータブルエコー機器を使える技師による被災地の巡回検診が求められます。

 また、混雑したトイレに行かずにすむよう水分制限をしている避難者が多いことにより、尿路感染症の患者も多発しはじめます。これを予防するため、とくに女性向けのトイレゾーンの設置と衛生状態の確保が急務です。

■ 15日後から1ヶ月後まで

 多くの地域でライフラインは復旧し、医療体制は平時に近づきつつあります。しかし、それまで高度の緊張状態で仕事をつづけていた現地スタッフが疲労で倒れはじめます。限界状況での判断を続けてきた幹部クラスから、子供を含む多くの被災者の死を目撃してきた医師、看護師、薬剤師、放射線技師、理学療法士、栄養士、ケースワーカー、事務や清掃の担当者にいたるまで、傷ついた心と体を休めることが必要です。

 おそらく自宅は散乱したままで、使命感に従って仕事を続けてきたはずです。彼らに休息をとらせるために、様々な医療の専門性を有する職種や一般のボランティアが、日常業務の代行支援を必要としているはずです。

 緊張状態がはずれ、疲労に気がつく頃、風邪をひく人が増えてきます。また、場合によってはインフルエンザの流行をみるかもしれません。避難所の感染対策については、また別に書いてみたいと思いますが、今から考えておくべきことはワクチンの接種です。とくに基礎疾患のある方々を守るためにも、避難所での生活が長引きそうな方々については、老いも若きもワクチン接種にご協力いただいた方がよいかもしれません。

 あと、当たり前のことなのですが、発熱したボランティアは即刻被災地退場です。とくに、熱を出したまま避難所などにゼッタイ入らないこと。避難所で流行する多くの感染症は「最初はボランティアが持ち込むもの」であることを自戒しましょう。

 また、避難所で生活している高齢者は、寒冷下で毛布にくるまって、ほとんど動かずにいるため筋力が衰え、関節が拘縮(可動域制限を起こす状態)してきます。できれば早い段階からリハビリを開始しておくべきですが、その後、こうした高齢者が寝たきり状態になるかどうかの重要な時期にさしかかります。理学療法士、整体師、ヨガなどの専門家が多数必要になってきます。

 新潟県中越地震のとき、小千谷市の保健師らが震災後3週間の時点で実施した被災者約1万7千人の健康状態調査では、234人が健康相談など何らかの支援が必要と判断されています。そのトップは「心のケア」で41%で最も多く、健康相談(27%)、医療機関の受診(25%)、食事・トイレなどの介助(18%)と続いています。自覚症状では不眠や憂うつ、意欲低下など精神的な症状が目立つという結果でした。

 つまり、この時期には、孤立した被災者がうつ状態にないかを確認することが必要です。周囲が復興し、家族と再会し、新たな生活の目途が立ち始めるなか、一部の方は焦燥と絶望を行き来しているかもしれません。こうした被災者の自殺を予防することも含め、避難所などでの声かけ、話し相手が求められるようになります。

 ただし、災害の記憶を引き出させるような話題は避けるべきです。災害のたびに重ねられている失敗だと私は思っていますが、「小児の被災者に災害の絵を描かせるのは禁忌」です。記憶を固着化し、PTSDへと誘導すると言われています。こうした治療法(ポスト・トラウマティック・プレイセラピー)が臨床心理士によって行われることはありますが、あくまでトラウマ化している小児に対する専門的なアプローチであることをご理解ください。

 小児については、忌まわしい記憶を忘却することが可能なので、ボランティアレベルでの支援介入では「思い出させないことが重要」なのです。メディアも含めて、災害の体験を子供に語らせたり、描かせたりしないようにしてください。

 高血圧などの慢性疾患をもつ中高年の方々は、明らかな症状を認めていなくとも、「血圧が高いのではないか」、「血糖値が不安定なのではないか」、「不整脈が出ているのではないか」といった、漠然とした健康不安を抱えながら家の片付けなどに追われていることが多いものです。避難所などを医師や看護師が定期的に訪れて「体調を見守ってさしあげる」ことは、震災後の様々な不安のなかで「ひとつの安心」を提供する活動となると思います。

 ただし、巡回診療で血圧などを測定して「ちょっと高いですね」と事実だけを伝えて、そのまま何もしないのであれば、単に「不安を助長する活動」にすぎませんね。私は、症状のない被災者の血圧や血糖を測定するのは反対です。基本的には健康不安への傾聴とアドバイスを行ない、とくに希望があれば血圧を測って差し上げればよいでしょう。

 避難所を対象とする巡回診療の重要な役割は、かかりつけの診療所や病院の再開を告げることだと思います。ですから、地元保健師らと連携しながら各医療機関の復興状況について情報収集をこまめに行い、医療が復興しつつあることの広報が必要な時期と言えるでしょう。地域の保健医療資源を把握し、今後の地域医療の担い手となるのは、やはり地元の医療機関です。被災地医療支援の最終的なゴールとは、患者さん一人一人を安心した気持ちのまま、かかりつけ医へと誘導することですから…。

■ 1ヶ月後以降

 震災から1ヶ月が経過すると、避難所も救護所も縮小されはじめるでしょう。そして、被災地の医療は緊急支援より地域主体へと引き継がれる段階となります。

 ただし、復興の足取りは弱者の歩幅というよりは、むしろ強者の論理でことが進められがちです。また、問題にフタをすることで、災害の現実から逃避しようとするメンタリティが働くことも多いと思います。実際、平時の介護現場ですら、家族が「うちは大丈夫」と言っていながら、奥の部屋で高齢者が厳しい状態に置かれていることが珍しくはないわけで…。

 過去の災害事例を振り返ると、行政は避難所の閉鎖を思いのほか早く進めるという印象が私にはあります。復興を急ぐ空気と追いつけないでいる被災者、とくに高齢者の方々を長期で関わるボランティアは代弁することができます。ただし、彼らを抱え込むのではなく、行政と連携して地域の医療や福祉のなかに居場所を探してさしあげるようにするべきです。少なくとも、地域医療の担い手となりえない外来ボランティアの手に委ねられるものではないですね。

 そして、とても大切なことですが、疎かになり後味を悪くしてしまう問題があります。それは、引き際の問題です。あらゆる支援活動は、開始する段階で支援終了の目安を設定しておく必要があります。それは、被災地の医療機関の復旧状況や避難所の人数などが指標となるかもしれませんね。

 ただ、被災地の状況は刻々と変化するため、ボランティアは自らの活動に耽溺せず、地域全体の状況について把握しておく必要があります。そのためにも、自治体や医師会などと連携をとりながら、地域の復旧状況を逐次確認し、また他の支援団体の動向にも目を配っておきたいものです。どのような援助も、長期化すると現地のシステムに組み込まれ、依存関係を生み出す恐れがあります。漫然と支援活動が継続しないように配慮すべきですね。

■ おわりに

 テレビ報道をみていると、専門的な災害医療を背景としたチームばかりが活躍しているように見えるかもしれません。瓦礫の下の医療であるとか、多数の負傷者を前にしたトリアージ技術といったイメージが先行しがちですね。でも、こうした専門性の高い災害医療とは被災直後(およそ72時間以内)の特殊な状況において求められるものです。国内外の被災地支援に関わった経験から申し上げますが、時間的にも空間的にも圧倒的に求められていたのは、被災地の病院・診療所において平時と変わらぬプライマリケア・サービスを安定して提供できるよう支援する活動でした。

 支援を躊躇する理由はありません。あなたにもできることがあるはずです。ただ、大切なことは現地のニーズをきっちりつかみ、「支援したい」という自らのニーズに溺れないことですね。ここで私が書いたことも、イメージの一助に過ぎないことをご理解ください(あらゆる被災地は刻々と変化しながら助けを求めています)。おおよその震災医療支援の流れをつかんでいただいたら、まずは友人のつてなどを利用して、あるいは支援活動団体などに申し込んで、あなたならではの支援をはじめていただけることを期待しています。


さらなる理解のために(参考となる文献):
1) 田中良樹:被災現地の災害医療と避難所医療.治療 84(4): 1286-1291, 2002. <神戸震災の経験から災害時の医療ニーズについて整理されている>
2) 山本義久:大災害時の情報収集と医療.治療 84(4): 1317-1320, 2002. <大災害時の医療情報収集の手段としてインターネットの有効性を紹介している>
3) 石井昇:災害医学教育の現状と課題.救急医学 25(1): 85-90, 2001. <わが国の災害医学教育の現状と問題点を指摘し、具体的な教育方法について提言している>
4) The Sphere Project. 2004/アジア福祉教育財団難民事業本部:スフィア・プロジェクト-人道憲章と災害援助に関する最低基準.アジア福祉教育財団, 2004. <多くの援助機関の経験に基づき作成された災害援助の国際的イニシアチブ>
5) 高山義浩 : 新潟中越地震におけるプライマリ・ケア支援活動 . Journal of Integrated Medicine 15(8) : 662-664, 2005. <筆者による震災地域における医療支援活動についての報告と検討>

高山義浩(沖縄県立中部病院)