2011年3月5日

企業におけるリスクに応じた新型インフルエンザ対策

はじめに
 一般企業においては、新型インフルエンザの感染リスクは、実際の患者と対面して診察をする医療従事者に比較するとそれほど高くない。しかしながら一部の企業では過剰なまでの対応が行われていることがある。また、効果のよくわからない感染対策グッズの購入に走っている企業も散見される1)-2)。企業でも感染リスクに応じた対応が求められる。本稿では、最近の新型インフルエンザの動向と企業に求められる職場の感染リスクに応じた新型インフルエンザ対策についてリスクの評価手法とその対策のあり方についての資料を作成したので紹介する。

2009年の秋の新型インフルエンザの動向と企業での対策
 日本での20091020日現在の感染者の約75%20歳未満ということで、企業の担当者にとっても新型インフルエンザA(H1N1)は関係ないように思われていることがある。年齢があがるにつれ感染者の数が減るのは、以前流行した「新型インフルエンザ」においても見られた現象である。国民の2割が感染するという試算もあるが、特に20歳未満ではこの冬だけで20から30%が感染する可能性がある。また、20歳以上では1割から2割弱が感染すると予想されるため企業にとっても無関係というわけではない。
 また、労働者の年代の感染について危惧されていることは、現段階では日本での感染者も重症者も20歳未満が約75%を占めているが、すでに流行が拡大したオーストラリアやニュージーランドでは重症例の全体の半数以上が20歳以上であり、今後の流行の拡大によって日本の重症例も20歳以上の成人に拡大することが危惧されている3)
 このような状況において、現在流行している新型インフルエンザA(H1N1)に対して企業としてどの程度取り組むべきなのかという質問がよく企業の担当者からされる。個人的な見解としては、次のものをあげている。1.企業を感染の拡大の場にしない、2.感染者がでた場合には安心して休めるようにお互いが助けあえるようにする、3.感染者の増加で業務に支障がでることでおこりうる消費者や地域の影響を最小限にする。

職場の感染リスクとその対応
 詳細については付録としてつけた「職場を新型インフルエンザA(H1N1)の感染から守るための3つのステップ」にしめした。本冊子の作成にあたっては、平成21年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)職域における新型インフルエンザ対策の定着促進に関する研究(主任研究者高橋謙)の助成を受けて行った。
 この資料において最も重要な点は、感染者が職場に来ないということが求められている点である。日本の多くの資料には手洗い、マスク、うがいということがくり返し書かれており、これらが最も重要な印象を持っている担当者が多いが、そうではない。米国などの資料の最初に書いてあることは、感染したら家にいなさいということである。感染していない人に対する対策の最初にあげられるのは、感染者らしい人には近づかないである。対策のバランスがややわが国では手洗い、マスク、うがいに偏っていることは危惧されることであり、今後の対策において改めて強調しなければならない。

包括的な感染症対策を
 最後に、こうした状況において新型インフルエンザA(H5N1)の脅威に対しての対策を急いでいるという企業の担当者もいるようである。筆者としては、新型インフルエンザA(H5N1)が流行しないとは断言しないが、様々な感染症が流行しうることを考慮して包括的な感染症対策を行うべきと考える。
 基本的な対策はすべて共通である。流行の当初には不確定な情報が多く、対策はやや厳しくしたものを行わなければならない。その後、次第に感染症のことがわかってきたらそれに応じた対策に変えていく。
感染経路は基本的には、飛沫感染対策、接触感染対策が主で、もし空気感染する感染症の場合には、空気感染対策を含めたものを追加すればよい。しかし、実際には空気感染対策は企業などではやや難しいため、今回の新型インフルエンザA(H1N1)と同様に最も重視されるべき対策は感染した疑いのある人は職場に来ないということであろう。
 2008年度に新型インフルエンザの事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインの改訂に関わった際に2002年のSARSの流行に関わった企業の担当者にコンタクトを試みた。当時の状況を記述していた人のほとんどは退職しているか、他の部署に移っておりコンタクトすることは困難であった。ではこうした企業がその後も感染症対策を行ってきたか。そうであることが期待されるが、実際にはなんとなく乗り越えてしまうと、そのついでに包括的な対策というわけにはいかないようである。
 新型インフルエンザA(H1N1)の流行による社会や企業への影響はこの23年は継続すると考えられている。ぜひ、企業の担当者や産業医は連携してこの機会に包括的な感染症対策を構築することを実行していただきたい。

参考文献
1.   和田耕治.インフルエンザにかからない暮らし方.PHP出版,2009
2.   和田耕治.企業における新型インフルエンザ対策.ケアネットDVD,2009
3.   The ANZIC Influenza Investigators. Critical Care Services and 2009 H1N1 Influenza in Australia and New Zealand. N Engl J Med. 2009; in press (doi: 10.1056/NEJMoa0908481)

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