2011年3月12日

地震後の緊急の創傷ケア


地震の際と後は外傷のリスクが高いです。応急手当は小さい傷を回復させ、感染の可能性を減らすことができます。
破傷風はけがをしている人の潜在的な健康の脅威です。

もし次のような症状があればすぐに治療を受けましょう
・傷の中に異物がある
・感染するリスクのあるけが(犬にかまれた。泥のついたものが刺さった)
・古い傷が感染してきている(痛みの増加、腫脹、発赤、浸出液増加、または発熱)

小さな傷を治療する
・傷のあるところに装飾品や衣料品が触れないようにする
・石けんときれいな水が手に入るなら十分に洗います。
・指で傷を触れないようにする (可能な場合は、使い捨てのラテックス手袋を使用)。
・出血が続く場合は、しっかりと押さえる。可能であれば清潔な布またはガーゼを使用する
・止血した後は、傷をきれいにする
・汚れた傷、刺された、穿刺された傷は開いたままにします。正しくきれいにされない傷は感染します。
・痛み止めを必要に応じて使用します。

その他の考慮事項
・すべての傷が感染しえます。
・挫傷は切り傷よりも感染する傾向があります。
・海水などに触れた傷は感染するリスクが高まります
・土と砂との接触での傷の感染の可能性が増加します
・穿刺傷は衣類や汚れが入り感染しやすくなります。
・破傷風のワクチンを最近接種していない場合にはワクチン接種を相談しましょう。

津波後の子どものメンタルヘルス対策


http://www.bt.cdc.gov/mentalhealth/pdf/Helping-Parents-Cope-with-Disaster.pdf
こちらの拙訳

こども達は災害においてショックを受けているように見えない子もいれば、感情的に影響をうけたり行動が変わったりする子もいます。それにより子どもは不安、驚き、怒り、孤独感、悲しみを感じ、また泣いたり、過食になったり、不眠、疲労、過緊張などの反応が起こります。

こうしたなかで子ども達と正直に向き合い、対応できることを伝える必要があります。

子ども達は次のようなことを心配しています。
・親と離ればなれになるのではないか、一人になるのではないか
・また災害がおきるのではないか
・だれかがけがをしたり、亡くなったりするのではないか

そうしたことを考慮して次のような行動をしてみましょう。


どうしたら災害における子どもの心の助けができるのか?

1)あなたの子どもの年齢に関係なく次のことを覚えておきましょう
・あなた自身ストレスを感じていても落ち着いて対応しましょう。もしあなた自身が感情をコントロールできないなら家族や専門家に支援を求めましょう。
・日々の生活を普通通りに過ごしましょう
・わかる範囲で質問には正直に答えましょう
・子ども達に災害のことについては彼らの視点で話をさせましょう。彼らにあなた自身が彼らの心配や質問に耳を傾けていることを伝えましょう。また怒ったり悲しくなったりすることは大丈夫だということを伝えましょう。
・子どもたちにあなたが子ども達を愛していて、守っていることを伝えましょう。
・安全な環境をつくりましょう。

2)5歳までの子どもの場合
・子ども達にはあまり報道をみせないようにし、災害について話を聞かせないようにしましょう。
・彼らが大人の愛を感じれる時間をたくさんつくりましょう
・子どもを抱きしめたりして身体的な接触をするようにしましょう
・寝るときは安心させましょう
・身体的に活発的になれる機会をつくりましょう

3)6歳から12歳の子どもの場合
・大人の愛を感じれる時間をつくりましょう
・大人が子ども達とともにあることを言葉でも、身体的な接触で伝えましょう。
・大人の話やメディアの報道にはあまり触れさせないようにしましょう。彼らがなにを見て、聞いて、感じているかを話しましょう。
・話したり、遊んだり、創造的になったりする機会を提供しましょう。
・寝るときは安心させましょう・

4)13歳から18歳の子どもの場合
・あなたがどこにいて、彼らがどこにいるかを知らせるようにしましょう。
・友達と話す機会を持たせましょう
・もし地域のニーズや災害に関心があるなら家族や周りの人に貢献できる場を提供しましょう。
・彼らが自分達自身をお互いに支え合えるように支援しましょう。よくたべて、ねて、運動させましょう
・もし避難所などにいる場合には安全であることを伝えましょう
・どのように感じているか、どうやって乗り越えるのかをはなしてみましょう。
(注:アメリカ的ですが、大事なことです。電話相談でも受け付ける窓口はできるといいですが)

津波の後の復旧作業における労働者の安全と健康を守る10の点~2004年インド洋津波に学ぶ~

津波の後の復旧に関わる労働者やボランティアの方は安全と健康を守るための対策を知り、実行する必要があります。作業者の中には経験がない人もいるので、互いに安全を確保しながら作業を進めます。

1.感電を予防します
自然災害の後に感電が起こりえます。感電を防止するために、清掃活動に参加する人は、次の手順を実行することが求められます。
電気回路や電気機器の近くに水がある場合には、メインのブレーカーまたはヒューズパネルの電源を切ります。電気は、専門の電気技師の確認が終わるまで入れません。もし電源がオフになっていることが確認されない場合には水のあるところに入らない、また地面のぬれているところで電気機器をさわらないようにします。絶対に切れた電線に触れないようにします。
電線が切れた地域での掃除などをする場合には、電気会社に連絡し、送電の停止などを行います。頭上の送電線の近くではしごなどを動かす際には特に注意が必要で、不注意な接触がないように細心の注意を払います。

2.一酸化炭素中毒を予防します
洪水の後の片付けには、ガソリンまたはディーゼルポンプ、発電機などを使用することがあります。これらの装置は、無色、無臭で致命的な「一酸化炭素」を発生するため、こうしたガソリンを用いる機械は屋外で使用し、屋内に持ち込まないようにします。

3.筋骨格系障害を予防します
片付けの作業により、手、腰、膝、肩などに深刻な筋骨格の障害を起こすことがあります。泥などを手で運んだり、建材を運んだりするときは特に腰痛への注意が必要です。こうした障害を予防するために2人以上のチームを使い、一人あたり20Kg以上のものを運ぶのは避け、機械を用います。

4.寒さ・暑さ対策をします
24以下の水につかったり、働いたりすると体の熱が失われ、低体温になります。低体温のリスクを減らすためにもゴムのブーツ、暖かい洋服、単独作業をしない、水の外に頻回に出る、可能な限り乾いた洋服に着替えるなどします。
 また、暑い季節には熱中症の対策も必要です。

5.地盤の不安定性を考慮します
洪水の水は、歩道、駐車場、道路などを破壊します。水によって破壊された建物や地面が安定していることを期待してはいけません。津波に持ちこたえた建物も倒壊の危険性があります。洪水で破壊された建物は専門家による確認の前に中や周りで働いてはいけません。もし建物が動いたり、変な音がしたらすぐに立ち退きます。また余震による倒壊にも注意します。

6.危険物を管理します
洪水の水には、タンク、ドラム、パイプなどからの重油、農薬などが含まれている可能性があります。消防署や自治体などとの連絡なしに不明なコンテナを移動しません。
潜在的に汚染された可能性のある地域での作業には、皮膚への接触や蒸気の吸入をさけるための適切な防護服を着用します。農薬やその他の有害な化学物質にさらされた可能性のある皮膚は頻回にしっかりと洗います。

7.溺水に注意します
たまった水に入ると泳げたとしてもおぼれる可能性があります。車の中にいる人が溺水する可能性も高いです。深さが不明の場所に車や重機で入らないようにします。単独作業の禁止や洪水の水がたまった近くで作業をする際にはライフジャケットを着用します。

8.保護具の装着と応急処置をします
浸水した地域での作業では、次の保護具が必要になります。
ヘルメット
ゴーグル
手袋
安全靴、防水ブーツ
チェーンソー、ブルドーザー、送風機、乾燥機などの機械からの騒音は、作業者の耳鳴りや聴覚障害をおこします。お互いに叫ばないと伝わらない場所では耳栓をします。
 また保護具をしていたとしてもけがややけどをすることがあります。汚染された水に曝露されると大変危険です。すべてのきずはきれいな水で洗いましょう。また、作業中の切創に対して破傷風の予防接種を確実にします。


9.閉鎖空間での作業には十分に注意をします
ボイラー、パイプライン、ピット、浄化槽、下水タンクなどの閉鎖空間では有毒ガスの発生、酸欠、または爆発の可能性があり死亡事故につながる可能性があります。多くの有毒ガスや蒸気は目に見えず、またにおいもないので、安全かどうかを感覚で判断してはなりません。
閉鎖空間には十分なトレーニングを積んでいなければ絶対に入ってはいけません。もし閉鎖空間に入る必要がありトレーニングを積んでいなければ消防に相談しましょう。
閉鎖空間とは、入口または出口が限られた範囲しかあいていない、不十分な自然換気、連続した作業のためのスペースが想定されていないといった場所が該当します。

10.ストレス、長時間労働、疲労を予防します
長時間の労働や、家が破壊されたり仕事を失ったりすることで非常に大きなストレスを感じます。このようなストレスにさらされている作業者はけがや感情的な事件がおこりやすくなり、またストレスに起因する疾患を発症しやすくなります。家族、近所の人、メンタルヘルスの専門家による支援はストレスに関連する疾患などの予防につながります。
疲労を予防するために、復旧や清掃の優先順位を設定し(日や週単位で)、身体的な疲弊を避けます。また、睡眠を十分にとり、休息をこまめにとり、疲弊しないようにします。


和田耕治

津波後の食中毒予防 米国CDCサイトの翻訳

かつて能登半島地震ではノロウイルスが流行しました。
先駆けた予防策の展開が期待されます。

食品を介した病気を予防するために、食事の前や食事の準備する前、トイレの後など
にきれいな水と石けんで手を洗いましょう。きれいな水がない場合は、きれいな水が
手に入るまで水が不要な手指消毒剤を使用します。

食品は缶詰など防水の容器で封印されていなかったなら、海水や川の水などに汚染されたものを食べてはいけません。
汚染された食品はすべて廃棄します。

壊れていない市販の缶詰食品は保管できます。ラベルをはがし、石けん水などで缶を洗い、コップ 1 杯 (約 0. 25 リットル) の家庭用漂白剤 (5. 25 %)を約20Lの飲水可能な質の水で作成した消毒剤で缶を徹底的に消毒します。さらに、マーカーで内容と有効期限を記載します。

スクリューキャップ、スナップの蓋、圧着キャップなどの容器に入った食品ですでに
開けていたものは消毒できないので廃棄します。

乳幼児の食事
母乳ではない場合は、すでにミルクとして作成され密閉されたもののみを
使用します(追加の水が必要でないもの)。(注:そういうものは市販されてましたっけ?ぜひあるようなら現地に届くといいですが)

食品を冷やす (現在当該地域は寒い関係で不要か?現段階では訳さず)

冷凍食品
冷凍食品は「冷蔵庫」程度に冷やされていればたいてい食べれますし、さらに冷凍できます。
安全のためにもしあやしいと思ったら捨てましょう。食品で室温で2時間以上放置されて
いたり、においがきついなどあれば廃棄しましょう。(注:かつてのアジアの津波のような地域が想定されているからでしょう)

2011年3月5日

院内で起こる暴言・暴力に組織的に取り組む

1.はじめに
 一部の患者による医療機関の職員に対する暴言・暴力は近年課題になっている。病床を伴う医療機関においては残念なことに日常的に程度の差はあるが発生している。診療所においては事例の数はやや少なく、あまり起きていないかもしれないが、ある日突然発生すると、備えをしていないこともあって大きな影響を受ける可能性がある。
 こうした職員への暴言や暴力は医療機関で組織的な取り組みを行うことによって発生の予防ができることも多い。また、発生したとしてもその影響を低減することができる。しかしながら、多くの医療機関では、これまで十分に組織的に取り組まれてこなかった。その背景には、暴言・暴力が医療機関としての組織の課題ではなく、職員の“個人の問題”としたり、暴言・暴力の対象になったとしても職員自身が報告することで上司などが自分をさらに責めるのではないかという恐れを抱いたりしたことによると考えられる。
 本稿では、医療機関における暴言・暴力について組織的に取り組むための具体的な対策を紹介する。

2.意見箱から医療機関の文化がみえる
 医療機関での暴言・暴力対策では次のことが大前提になる。1.普段から患者との良好なコミュニケーションをとるよう心がける。2.患者などからの“意見、コメント、クレーム”を受ける場所や部署を明確にして、大切にし、迅速に対応する。こうしたことが行われないといかに小手先の暴言・暴力対策をしても予防ができない。
 医療機関の意見箱をみるとその組織の文化が見えると行っても過言ではないと筆者は考えている。医療機関によっては、患者にとって意見箱の場所がわかりにくかったり、書く場所がなかったり、鉛筆がなかったり、落ち着いてかけるよういすがなかったり、意見箱の中には多くの意見が入っているが回収されて反映されていないようであったりする。中には、意見箱に意見を書かれることを職員が恐れているのか、意見がないことこそが評価されていると誤解しているとしか思えない医療機関もある。是非今一度自分の医療機関の意見箱がきちんと機能しているかを確認いただきたい。

3.暴言・暴力は氷山の一角
 医療機関で起こる暴言や暴力は氷山の一角である。これを予防するためには、その背景にあることを含めた包括的な対応が必要である。その背景には様々な事があげられる(図1)。近年医療機関も効率化を求めなければならなくなり、業務の多くを外注化したり、一人一人の業務が多くなりすぎて職員が医療機関を辞めてしまったりする。こうしたことは対応する職員の質の低下にもつながる。また、業務が複雑化し、部署間の連携も十分に保てないといったこともあげられる。そのため、対策を検討する段階においては、その背景にある要因にまで目を配る必要がある。

 
4.暴言・暴力の現状
 現状としては、日本医師会 勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会が行った調査では医療機関の勤務医の約2人に1人が半年以内に1度以上の不当なクレームなどを受けていると回答した。暴力に関しては、某医科大学の卒業生を対象に筆者らが調査を行ったところ493人の臨床医のうち15(3.0%)が半年以内に1度以上の何らかの暴力を経験したと答えた。看護師においてはさらに医師以上の件数が起きている。
 対策を進めるためには院長や理事長などの管理者が率先して取り組むことが必要であるが、事象が起きても報告されないことがあるため、管理者は意外にどの程度の件数が自分の医療機関で起きているか把握していないことがある。
そのため、現状把握を目的として暴言や暴力などが半年の間に経験したかどうかを無記名のアンケートをとってみることも必要となる。半年としたのは、記憶のある範囲として聞いている。3ヶ月としてもよいが、1年では長いので記憶の限界がある。このように期間を限定しないと正確なデータがとれないので注意が必要である。数年に1度行うことで変化を追うことも可能となる。

5.  医療機関としての方針を持つ
暴言・暴力予防策には様々なものがある。やるかやらないかは病院次第である。医療機関の組織的な対策として行うにあたり、もっとも重要なことは、院長や理事長などの管理者が医療機関の方針として、「1.医療機関では一切の暴言や暴力は許さない、2.被害にあった医療従事者は組織で守る」を明確に示すことである。方針といっても、文書で院長名などに表明してもらうか、それが難しければ朝礼などで方針として口頭で示してもらうのがよいであろう。
なぜ方針が必要か。例えば一部の患者が暴言を言ったり、暴力をふるっている場合に毅然と注意をするなどの対応の際や、大きくこじれる前に医療従事者が管理者に報告をするといったことに関してこの基本方針がなければ判断に迷って一つ一つの行動に影響をしてくるのである。このような方針が欠けた場合には包括的な対策にならない。
この方針に基づいて、1.予防、2.発生した際の対応、3.事態の収拾、の対策が行われる。具体的にそれぞれを紹介する。

6.予防策
 予防策の例を表1に示した。注意が必要なのは、一つの対策だけやればよいというものはないことである。例えば、「さすまたを購入する」ということだけで対策を行った気になっている医療機関が見受けられるのは残念なことである。皆で暴言や暴力を予防するための文化を創るということを目標として継続して取り組む必要がある。
 ポスターを掲示する(図2)というのも、前述の方針である医療機関ではいかなる暴力を許さないということを示す意味でも重要である。近年は公共交通機関の駅でも同様のポスターが増えてきたこともあってか、医療機関において貼ることに抵抗がなくなってきた。
暴言や暴力の事例をロールプレイとして入職時などに教育で行うことは費用もかからず、効果的な方法である。例えば3人組になって、患者役、看護師役ともう1人が観察者として行う。事例については、医療機関で集めれば比較的集まるものである。ロールプレイをやる際に注意が必要なのは、あまり熱くなりすぎないようにすることである。また当然ながら相手をたたいたりしてはいけない。ロールプレイにおいて、クレームを言う立場になってどういう気持ちになるか、言われてどういう気持ちになるかということを体験しておくことによって、実際の場には冷静に対応できるようになる。暴言や暴力は突然起こるため、ロールプレイで経験しておくことは重要である。
暴言や暴力が発生する前には多くの場合予兆がある。しかし、医療機関の管理者によると、その予兆を感じとれない職員もいるようである。暴言や暴力が発生する予兆をつかむこともきちんと教育しなければならない。予兆としては、眉間にシワが寄る、唇の両端(口角)が下がるといった「怒った」表情に気づく必要がある。また、声がだんだん大きくなる、早口になる、時計を見始める、貧乏ゆすりをするなど、いらいらした感じにも気づく必要がある。気づいた場合には、忙しいなかでも、なぜ怒っているかを考え、迅速で丁寧な対応をすることで発生を予防することができる。
 警察OBを雇用する医療機関も近年増加している。しかしながら、筆者の知る限りでは、警察OBを雇ってうまくいっている医療機関は意外に少ない。うまくいっていない医療機関では、ただ警察OBを雇っているだけで、役割が不明確であったりする。中には、医療安全管理者と対立したり、事務長の小間使いのようになっていることもある。医療機関として警察OBが本来の能力を発揮できるような体制やルール作りを行うことが前提になる。
 予防策については、医療機関で具体的になにかを実施しようとすると意外にも内部から反対意見がでてコンセンサスが得られないことがある。しかしながら、対策を進めるためには、例えば1ヶ月間試行してみて、良ければ継続し、問題があれば改善といった柔軟な姿勢で行う。また予防策を行ってもすべての事例に対応できるのではなく、悪質な事例については組織で迅速に対応する体制が必要である。

7.発生した際の対応
発生時には迅速な対応が求められる。まずはなによりも優先されるべきことは、逃げる、または助けを呼ぶことである。その上で、どのように対応をするかということについては、各病院で暴言や暴力を3から4つのレベルにわけ、それぞれに対してだれがどうするかというA4で1枚の表を作成する。それを電話機の横に各病棟などに貼っておくことである。(図3参照)
 警察を呼ぶことは発生時には重要である。警察を呼ぶ基準としては、「常識の範囲で」「だれかが恐怖を感じたら」ということが考えられる。暴力に対しては直ちに警察への連絡となる。一方で暴言についてはある程度注意をし、「これ以上大声を出すなら警察を呼びます」など警告を行ってから呼ぶ。
 警察への連絡についても手順を決める必要がある。時に、警察へだれも連絡をしていなかったこともある。また、110番ではなく、警察署の一部署に電話をするのは間違いである。また、警察を呼んだことに関して職員を後でとがめたりするようなことがないようにしたい。
 ナダのある医療機関では暴言・暴力に該当すると判断される事例において医療従事者は“コードホワイト”を発令(電話で要請)する。それにより、5人一組のチームが約5分以内に駆けつけ、事態の収拾を行う。チームのメンバーは、看護師、看護助手、事務員(警備員は含まれない)で構成されており、ケースによっては4人一組(1人は指揮をとる者)で、患者に不必要な危害を加えず、暴力を予防するように抑える。日本でも導入している医療機関もあるが、意外に活用することは年に数回だったりして、時々訓練するなどしてシステムを維持する取り組みも必要となる。
 時々医療機関で、「トラブルを繰り返す患者を医療機関への出入り禁止にしたことがあります」という話を聞くことがある。状況を聞くと、ずいぶん医療機関で我慢していたが、ついに堪忍袋の緒が切れたといった感じである。医療従事者として目標とするのは、こうした患者が反省して治療に専念することである。医療機関から閉め出すことや、ましてや犯罪者にしたてあげることでもない。場合によっては、家族や警察などの介入をもとめることが最後は治療に専念できるような状況につながる可能性もある。

8.収拾時
 被害者は暴言・暴力により心理的にも傷つけられており、職場でのサポートが必要である。また、ケースによっては顧問弁護士や警察などとも連携する。
 表2に被害者に起こりうる心理と、対応する管理者がもつ被害者の印象のギャップについて示した。被害を受けた医療従事者に特徴なのは、患者にそうさせた自分が悪いや我慢できなければプロではないという意識である。そうしたことを知らなければ、管理者として配慮のない言葉をかけてしまい、相手をさらに傷つけてしまうことがある。静かな場所で事例発生後には定期的な面談を行い、速やかに業務に復帰できるような支援が求められる。これらの対応は、すぐに精神科医に相談ということではなく、病棟医長や看護師長など職場の管理者レベルに求められる対応である。

9.おわりに
医療機関においての暴言・暴力は医療従事者の安全性を損なう危険事象である。こうした対策を行わなかったことで医療従事者になにかおきた場合には、病院管理者の安全配慮義務を問われる可能性がある。また、暴言・暴力の被害にあうことで、心理的な影響を受け、仕事に集中できなくなったり、離職したり、場合によってはPTSDを発症する可能性もある。さらには、被害にあわなかった人も医療機関の対応が十分でない場合には、組織への不信感やモチベーションの低下にもつながる可能性がある。
 多くの暴言・暴力は対策により予防することができる。また、対策を行うことで被害の低減を行うこともできる。こうした取り組みは、医療従事者のためのように一見見えるが、実は間接的には善良な患者が安心して医療を受けられるための環境作りにもなるのである。

参考文献
1.    相澤好治(監修),和田耕治(編集).病医院の暴言・暴力対策ハンドブック.メジカルビュー.2008
2.   吉川徹,和田耕治.一般医療機関の暴言暴力の予防と対策.ケアネット.2009


 
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表1.暴言・暴力の予防策の例

1.医療機関としていかなる暴言・暴力を許さないという姿勢を明確にし、ポスターなどで掲示する。(図2参照)
2.入院誓約書や入院案内にいかなる暴言・暴力を許容しないことを示す。
3.患者からの要望を聞く、患者支援センターや対応者を決め、周知する、また対応者の教育を行う。
4.最寄りの警察署や弁護士との連携関係を築く
5.起こりやすい場所(救急外来、精神科外来、患者と二人きりになる可能性のある場所)を特定し、必要な対策(逃げ道の確保など)を行う。
6.救急外来入口、待ち合い室に監視カメラを設置(ただし、プライバシーを侵害しない範囲で)。人目につくところに「防犯カメラ設置」という張り紙を設置する。
7.余裕をもったコミュニケーションが取れるよう必要な人員を確保する。
8.外来の待合室を快適にする。

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職場のいじめ・暴力・ハラスメント防止対策 医療機関における現状と対策

はじめに
 医療機関で発生する暴言や暴力としては、患者やその家族による医療従事者に対する暴言や暴力が近年課題と認識され様々な対策が行われるようになった。しかし、職員間での暴言やハラスメントについて、わが国の医療機関で対策が十分に行われているとは言えない。一方で、近年、諸外国の医師会や看護協会などは職員間でのハラスメントに関するガイドラインを示しているように世界的にも課題として認識されている。わが国の医療機関ではそのようなガイドラインが必要ないというのは後述するデータが示すように誤りである。
職員間の暴言やハラスメントの影響は大きく、被害を受けた職員は身体的にも、精神的にも傷つけられる。そうしたことが、不眠、帰宅後も休息できない、食欲低下、欠勤、離職など様々なことにつながる。こうした事象が頻回に起きなくても組織において存在した場合には「チーム」であることが不可欠である医療の根幹を揺るがし、医療の質を低下させることにもなる。本稿では医療機関における職場の暴言やハラスメントの現状と対策について紹介する。
はじめに申し上げておくが、後述する筆者らの調査結果などにも示すように暴言やハラスメントが比較的日常的に医療機関で起きているとは誠に遺憾であり、患者や一般市民もその結果に驚くのではないかと思っている。しかし、これまであまり語られなかったこの課題が議論の対象となりそれぞれの医療機関で対策が進むことを期待し、また筆者自身も取り組むことを決意する思いで執筆した。

職員間の暴言、暴力、ハラスメントの現状
わが国の医療機関での職員間の暴言や暴力については、いくつかの報告がある。研修医に関しては335人を対象にしたところ、84.8%が何らかのハラスメントを経験し、医師(34.9%)によるハラスメントが患者(21.7%)、看護師(17.2%)よりも多かった。黒田らは看護師96人の調査で、44%が過去1年間に職場での職員間の暴言や暴力の経験があると回答した。
筆者らは、2009年に東京都で開催された医療機関の暴力対策の講習会に参加した者を対象に職員間の暴言、暴力、セクハラ行為(それぞれの定義は表1)の現状について質問票調査をおこなった。講習会への参加者全体の特徴は、病院202施設631人が最も多く、全体では計235施設・団体694人であった。参加者694人のうち579人が回答した(回答率83.4%)
半年以内に一度以上の職員による暴言を経験していた看護職は27%、事務職は19%であった。半年以内に一度以上の職員による暴力を経験していた看護職は2%、事務職は3%であった。半年以内に職員による一度以上のセクハラ行為を経験していた看護職は8%、事務職は3%であった。また、自由記載においては表2のような事例が報告された。
調査や事例からみる限り医療機関では暴言や、ハラスメント特にセクハラ行為が日常的に起きているといっても過言でないようである。また、事例からは院長や副院長のような立場である者が加害者である事例が散見されたことは残念であった。また、医師や看護師などのヒエラルキーの高い者からだけでなく、同僚から部下から管理者や職種を超えて暴言やハラスメントが起きているようであった。

表1.調査における暴言・暴力・セクハラ行為の定義
暴言:傷つけることを意図した乱暴な言葉、脅し
暴力:実際に身体的に傷つけられたり、物を投げるなどの器物損壊
セクハラ行為:相手の意に反して、不快な感情を生じさせる性的な言葉や行動

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2.医療機関での暴言やセクハラの事例
.暴言やハラスメント
1)医師や看護師などのヒエラルキーの高い者から
・医師より、「お前達は使いすてだ」「お前達はバカだ」と暴言をはかれる。
・暴言を発する当事者が、副院長職にあり、院長ですら指導できない。
・職種が異なる相手であると、専門的知識を前面に押し出して、分からない者を馬鹿にする態度や言葉を出す。
・威圧的な態度の医療安全管理の室長がいます。恐くてインシデントが出せない。インシデントがないと書いてないのではないかと言われる。
・医師より飲み会参加を強要させられた。断ると業務から外されたことがある。

2)同僚や部下などから
・部下による人格否定や言葉遣いなど、名誉を傷つけられることが多い。選んだ言葉が相手に隙を与えて しまいモンスタースタッフへと変化してきている。要求が多く、義務を果たしていないスタッフへの対応に四苦八苦している。
・介護職員にだめな看護師と言われ、夜勤を下ろされた。
・特定の男性スタッフに無視をされている(食事を断ってから)。

.セクハラ行為
・挨拶をする際、近くに寄ってきて手をにぎったり背中をさわられたりした。
・若い女性医師の机の引き出しにアダルトビデオが入れられていた。
・高齢(男性)の医師が気に入っている職員(女性)の肩・腰に手を廻す。本人はコミュニュケーションの1つと思っている様だが、女性は嫌がっている。医師、院長、高齢という点から、はっきりと嫌とは云えない。

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医療機関での対策の進め方
 医療機関での対策の進め方を紹介する。表3にはそれらのまとめとして医療機関が最初に行う7つの対策として示した。

表3.医療機関での暴言やハラスメントに対する最初の5つの対策
①職場において暴言やハラスメントが起きうるという認識を持つ
②医療機関としてあらゆる暴言やハラスメントを許さないという方針を示す
③医療機関での暴言やハラスメントの実態調査を行う
④指導が必要な加害者に対して組織として介入する
⑤職場の管理者や労働者に職場での暴言やハラスメントの教育を行う。
⑥相談窓口と事例に対処する委員会などを組織する。
⑦厚生労働省の指針「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」を確認する。


①職場において暴言やハラスメントが起きうるという認識を持つ
 医療機関ではすでにチーム医療の重要性が確固としたものと認識されており、今更ながらこのような職場における暴言やハラスメントが起きていること自体を認めることができない雰囲気もあるように筆者は考えている。しかしながら、まずはこうしたことが起きうるという認識を管理者が持ち、積極的な関わりが不可欠である。

②医療機関としてあらゆる暴言やハラスメントを許さないという方針を示す
 対策の進め方は患者から医療従事者への暴力対策で行われていることと同じであると筆者は考えている。最も重要なことは、医療機関の方針として、「医療機関においてあらゆる暴言やハラスメントなどを容認しない」と「被害にあった場合には組織で守る」ということを院長や理事長などが示すことである。

③実態調査を行う
医療機関において認識が十分ではなく、先の方針を出すことが唐突に認識される場合には、実態調査から始めると良いであろう。実態調査は無記名のアンケートで、前述の筆者らの調査のように、暴言やセクハラ行為を定義し、期間を定めて(例:半年など)1回以上あったかどうかを聞くと良い。また全員を調査対象にすると労力も大きくなり、また報告書を作成するとなるとさらに手間が増えるため100名程度の調査を行い対策の実施に注力すべきである。

④暴言と暴力の対策
暴言については、医療機関においては間違いを起こすことにより患者の生命を危険にさらすことになるため、緊急な場などにおいては部下などに対して大声を出さざるを得なかったり、注意や叱責をする必要もありうる。筆者らの調査は、本人のとらえ方による判断のため、一部に業務上必要不可欠であった事例も含まれている可能性がある。しかしながら、怒鳴る、しつこく長期にわたって無視する、露骨な嫌みを言うなどは少なくとも職場にはそぐわない。
 事例より医療機関においてある特定の者が加害者になっていることが示唆されるが、院長などの管理者から注意をされていないため、本人自体が気づいていない可能性もある。また、注意されないためエスカレートしている可能性がある。
特に医師に関しては、破壊的行動をとる医師(Disruptive physician)として北米では課題として認識されておりガイドラインも示されている。破壊的行動は、言葉や行動が不適切で、医療の質に影響を与える行動とされている。例えば、職員に対しては、間違ったことを執拗に攻める、汚い言葉を使う、無礼、患者やスタッフの前で不適切な議論をする、突然怒る、他の医師を非難するなどの行動が見られる。こうした行動は医師に限らず他の職種でも職位の高い者には同様の行動が起こる可能性もある。医療機関としてこうした人を容認せず、きちんと注意をするといった対応が求められる。さらには、間接的に職員全体に対して教育を行い全体の認識を高めていくことも同時に行いたい。
また、同僚や部下による暴言は、職種のヒエラルキーを超えて能力を問うような暴言や、義務を果たさずに要求だけを上司にする事例があった。このあたりも認識の違いもあるが、医療機関として人材育成の観点からの対策も期待される。
身体的な暴力は、件数は少なかったが存在はしていた。事例の記載もなかったため具体的な内容は不明である。しかしながら暴言からエスカレートして暴力に発展している可能性もある。

⑤セクハラ対策
セクハラ行為については、筆者らの調査では看護職の女性の7%が経験していた。看護師は患者からのセクハラ行為を容認する傾向があり、まずはセクハラ行為であることを認識することが重要であることが指摘されている。これは職員からのセクハラ行為にも該当する。
また、オーストラリアの看護師の調査で、2年間の間に女性看護師の60%、男性看護師の34%がセクハラ行為を経験し、その加害者は患者と医師が多いと報告している。本調査では、男性の看護職、事務職も件数は少ないが、セクハラ行為を経験していた。医療機関は、女性職員が割合的には多いが、男性に対してのセクハラ行為も考慮した対策が必要である。
わが国ではセクハラ行為に関しては、厚生労働省の指針「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年)」が示されており、行うべき対策を確認する。なお、男女雇用機会均等法において、事業主にセクハラ行為について必要な措置を講ずることが法律で義務づけられていることを忘れてはならない。
対策としては、例えば、職場においてセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること、相談窓口の設置、事後の迅速かつ適切な対応できる体制などが必要である。これらの対策はセクハラ行為だけでなく、職員間の暴言や暴力にも適応できる。すでに民間企業では対策が浸透しているが、各医療機関においてもどの程度の対策が進められているか確認することが必要である。

おわりに
事例が起きた際に院長や事務長に相談しても十分な対応が得られていないことも報告されている。特に医師や看護師が加害者である場合には、その医師や看護師自身が医療機関において重要な役割を担っていることや、人手不足といったこともあり院長であっても注意をすると辞めてしまうのではないかと心配し手が打てないという側面もあるようである。しかしながら、放置することにより職場のモラルは低下し、また、医療職は一般労働者よりも比較的転職をしやすいこともあることから被害にあった職員が退職したりしてさらなる課題に直面する。こうした職員間の暴言やハラスメントは、職員を守るだけではなく、我々の責務である医療の質の確保にも不可欠であることを認識し、積極的に医療機関でも取り組む必要がある。

企業におけるリスクに応じた新型インフルエンザ対策

はじめに
 一般企業においては、新型インフルエンザの感染リスクは、実際の患者と対面して診察をする医療従事者に比較するとそれほど高くない。しかしながら一部の企業では過剰なまでの対応が行われていることがある。また、効果のよくわからない感染対策グッズの購入に走っている企業も散見される1)-2)。企業でも感染リスクに応じた対応が求められる。本稿では、最近の新型インフルエンザの動向と企業に求められる職場の感染リスクに応じた新型インフルエンザ対策についてリスクの評価手法とその対策のあり方についての資料を作成したので紹介する。

2009年の秋の新型インフルエンザの動向と企業での対策
 日本での20091020日現在の感染者の約75%20歳未満ということで、企業の担当者にとっても新型インフルエンザA(H1N1)は関係ないように思われていることがある。年齢があがるにつれ感染者の数が減るのは、以前流行した「新型インフルエンザ」においても見られた現象である。国民の2割が感染するという試算もあるが、特に20歳未満ではこの冬だけで20から30%が感染する可能性がある。また、20歳以上では1割から2割弱が感染すると予想されるため企業にとっても無関係というわけではない。
 また、労働者の年代の感染について危惧されていることは、現段階では日本での感染者も重症者も20歳未満が約75%を占めているが、すでに流行が拡大したオーストラリアやニュージーランドでは重症例の全体の半数以上が20歳以上であり、今後の流行の拡大によって日本の重症例も20歳以上の成人に拡大することが危惧されている3)
 このような状況において、現在流行している新型インフルエンザA(H1N1)に対して企業としてどの程度取り組むべきなのかという質問がよく企業の担当者からされる。個人的な見解としては、次のものをあげている。1.企業を感染の拡大の場にしない、2.感染者がでた場合には安心して休めるようにお互いが助けあえるようにする、3.感染者の増加で業務に支障がでることでおこりうる消費者や地域の影響を最小限にする。

職場の感染リスクとその対応
 詳細については付録としてつけた「職場を新型インフルエンザA(H1N1)の感染から守るための3つのステップ」にしめした。本冊子の作成にあたっては、平成21年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)職域における新型インフルエンザ対策の定着促進に関する研究(主任研究者高橋謙)の助成を受けて行った。
 この資料において最も重要な点は、感染者が職場に来ないということが求められている点である。日本の多くの資料には手洗い、マスク、うがいということがくり返し書かれており、これらが最も重要な印象を持っている担当者が多いが、そうではない。米国などの資料の最初に書いてあることは、感染したら家にいなさいということである。感染していない人に対する対策の最初にあげられるのは、感染者らしい人には近づかないである。対策のバランスがややわが国では手洗い、マスク、うがいに偏っていることは危惧されることであり、今後の対策において改めて強調しなければならない。

包括的な感染症対策を
 最後に、こうした状況において新型インフルエンザA(H5N1)の脅威に対しての対策を急いでいるという企業の担当者もいるようである。筆者としては、新型インフルエンザA(H5N1)が流行しないとは断言しないが、様々な感染症が流行しうることを考慮して包括的な感染症対策を行うべきと考える。
 基本的な対策はすべて共通である。流行の当初には不確定な情報が多く、対策はやや厳しくしたものを行わなければならない。その後、次第に感染症のことがわかってきたらそれに応じた対策に変えていく。
感染経路は基本的には、飛沫感染対策、接触感染対策が主で、もし空気感染する感染症の場合には、空気感染対策を含めたものを追加すればよい。しかし、実際には空気感染対策は企業などではやや難しいため、今回の新型インフルエンザA(H1N1)と同様に最も重視されるべき対策は感染した疑いのある人は職場に来ないということであろう。
 2008年度に新型インフルエンザの事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインの改訂に関わった際に2002年のSARSの流行に関わった企業の担当者にコンタクトを試みた。当時の状況を記述していた人のほとんどは退職しているか、他の部署に移っておりコンタクトすることは困難であった。ではこうした企業がその後も感染症対策を行ってきたか。そうであることが期待されるが、実際にはなんとなく乗り越えてしまうと、そのついでに包括的な対策というわけにはいかないようである。
 新型インフルエンザA(H1N1)の流行による社会や企業への影響はこの23年は継続すると考えられている。ぜひ、企業の担当者や産業医は連携してこの機会に包括的な感染症対策を構築することを実行していただきたい。

参考文献
1.   和田耕治.インフルエンザにかからない暮らし方.PHP出版,2009
2.   和田耕治.企業における新型インフルエンザ対策.ケアネットDVD,2009
3.   The ANZIC Influenza Investigators. Critical Care Services and 2009 H1N1 Influenza in Australia and New Zealand. N Engl J Med. 2009; in press (doi: 10.1056/NEJMoa0908481)