被災直後のこころのケアに関しては、必ずしも下記のすべてが当てはまらない状況もあるかと思いますが、被災地に赴かれる医療関係者の方々のお役に立つことができれば幸いです。
1.正常な反応であることの確認
とても怖い経験をした後、精神状態が不安定になるのは珍しくないことです。不安を持っておられる被災者の方には、多くの場合は異常な事態を乗り越えるための正常な反応と考えてよいことを、お伝えしてよいと思います。
2.話をすること、聴くこと
被災者の方々に、被災の体験を無理やり話してもらうことで、かえって精神症状を悪くしてしまう可能性があることが明らかになっています。ですから、マスコミや医療関係者が、なかば強制的に詳細な状況の聞き取りを行うことは、おすすめできません。
しかし、無理やり話してもらうことと、話したいと思っておられる被災者の方の話を聴くこととは違います。ご本人が自発的に出来事について話すことで不安が軽減することは、よく経験されることです。基本は、話したい場合は信頼できる人に話す、話したくない場合は無理に話さない、ということだと思います。被災者の方が話したい場合には、聴くことができるというメッセージを伝えることが大切だと思います。
3.眠れない方へ
被災直後の不眠は、むしろ恐怖に関する記憶を定着させにくくする可能性があることが分かってきています。不眠は辛いものですし、適切に睡眠薬を用いることも重要ですが、眠れないこと自体を不安に思う必要は、被災直後の時点ではないと思います。
ただ、数週間以上にわたって不眠が続く場合は、専門的な治療が望ましい場合もあります。また、いつも通りの睡眠がとれている方はもちろん大丈夫ですので、安心してください。
4.痛みについて
身体外傷後から1週間以内の時期に感じた痛みの強さが、その後の精神症状の悪化と関係しているかもしれないことが先行研究で指摘されています。疼痛の緩和が可能な場合は、それが精神健康にも良い影響を与えうると考えられます。
5.テレビとの距離
テレビは貴重な情報源です。刻々と変化する状況を把握するのに、欠かすことはできません。しかし、過去にトラウマを経験している人などは、テレビで悲惨な映像を延々と見続けることによって、精神状態が悪化する場合もあります。アメリカの9.11テロの被害者を対象にした研究でも、テレビを見すぎることは望ましくないことが指摘されています。子どもにも、注意が必要かもしれません。
6.援助者のストレスについて
被災地で悲惨な現場を目撃するなどの体験をした場合、援助者のトラウマになることがあります。スマトラ沖津波の際には、救助の目的で現地に派遣されたにもかかわらず、ご遺体の確認作業に追われることになった隊員に、強いストレスが生じたことも報告されています。
援助者も、まず自分自身の睡眠や食事を確保することが大切です。そして、ストレッチや深呼吸など、現場でもできる自分に合ったストレスマネジメントを心がけていただければと思います。
提供:西大輔(国立災害医療センター)
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