2011年3月30日

ボランティア活動で病気やけがをしないために知っておきたい4つのこと

1.ボランティアに参加する前に
 1)体調は万全ですか?
 体調が悪い時、特に発熱、下痢、嘔吐、咳等が見られる時は、被災地に入るのを控えましょう。被災地の外から来たボランティアが、被災地に感染症を拡げてしまうことがよくあります。
 現地入りする前に、破傷風、インフルエンザ、麻疹のワクチンを接種しているか確認し、必要に応じて追加接種をしましょう。また、医療に関わる人はB型肝炎ワクチンの接種が必要です。

 2)ボランティア組織に入りましょう
 被災地のボランティア組織などに登録して、現地のルールに従って行動しましょう。組織で動くことで、チームで作業することができ、お互いに安全を確認したり、シフトを組んで適切な休憩をとったりすることができます。

 3)ボランティア保険に入りましょう
 被災地は危険なところが多いですから、ケガをしたり病気になったりすることも考えられますので、できれば保険に入っておきましょう。ボランティア団体に所属している場合は、団体として保険に入っている可能性がありますが(念のため確認しておいてください)、個人としても契約することができます。最寄りの社会福祉協議会が窓口ですので、出発する前に入っておきましょう。掛け金は年間数百円ですが、保証される手術保険金でも数十万円までと少額ですので、普段から入っている傷害保険と併用することが一般的なようです。自分が普段から入っている保険内容も確認しておきましょう。


2.復旧作業に関わるときは、自分がケガや病気にならないように
1)けが
 動いている重機の近くは危険なので、近づいてはいけません。
 小さな傷口でも、泥や汚染された水にさらされると、化膿してしまったり、破傷風のような命に関わる病気にかかってしまったりすることがあります。
 もしけがをしてしまったら、すぐにきれいな水と石鹸で洗い流して、破傷風予防の処置が必要かどうか、医師に相談してください。破傷風は発症した場合には20%50%が亡くなってしまう致死率の高い病気ですが、今回の震災でも、すでに破傷風にかかった人が報告されています。

2)腰痛
 重いものを一人で持ち上げると、腰痛を引きおこすことがあります。おおむね22kg以上の重量物を運ぶときは、無理をせず2人以上で作業をするようにしましょう。

3)酸欠・硫化水素中毒
 津波で海水をかぶった建物の中は、十分な換気をすることができない場合があります。海水が入ってから長時間放置されていると、貝などが大量発生したり、そこにあるものが腐ったり、室内に大量のカビが増殖していたりすることがあります。そうすると、微生物が室内の酸素を消費してしまい、酸素欠乏症になる危険性が高くなります。酸素濃度が極端に低い空気を吸うと、一回呼吸するだけで酸欠で即死してしまうことがあり、非常に危険です。また、いろいろなものが腐るときに有毒な硫化水素が発生してしまうこともあります。大量の硫化水素を吸入すると、短時間であっても命に関わることがあります。
 海水がかぶった閉鎖空間、建物の中は、非常に危険ですので、立ち入る際には十分な換気が確保できるかを確認し、できるだけ消防や自衛隊などに相談しましょう。また、酸欠・硫化水素中毒のおそれがある場所に倒れた人がいても、救助しようとして無防備に飛び込むとさらに助けに入った人が酸欠で被災するので大変危険です。必ず、消防や自衛隊に助けを求めましょう。

4)有害化学物質による中毒
 災害現場には、石油、家庭用の薬品、農薬など、いろいろな化学物質が漏れ出しています。一部は混ざって化学反応をおこし、想像もつかないような物質が発生しているかもしれません。また、ゴミを野焼きにすると、有害な煙が発生する可能性もあります。少なくとも、変なにおいがするものには近づかないようにしましょう。
 ただし、有害化学物質の中には、一酸化炭素のように無味無臭のものも少なくありませんので注意が必要です。気分が悪くなったら、すぐに新鮮な空気のあるところまで逃げ出しましょう

5)脱水・栄養
 トイレ事情が悪いと、水分摂取を控えてしまう人がいますが、十分に水分を摂らないと、脱水症になってしまうことがあります。また、体を動かすには大量のエネルギーが必要です。十分な水分・栄養摂取(特に炭水化物、1食につき1000kcalを目安に)を心がけましょう。


3.保護具の使用を忘れずに
 作業時は必要に応じて、長袖・長ズボン、ヘルメット、ゴーグル、ゴム手袋、防水長靴(つま先と中敷きが金属で補強された安全靴)、保護マスクなどを着用してください。手袋は、内側はニトリル製などの耐切創手袋、外側はニトリルかラテックスの使い捨て(48mmの厚さ)と、二重にすると有効です。軍手では不十分です。


4.避難所での生活支援に関わるときは、体調管理に気をつけましょう
十分に休養と栄養をとって体調管理に努めてください。作業後や食事前、トイレの後は、流水と石鹸で手洗いをしましょう。清潔な水が確保できない場合は、速乾性消毒アルコールを使用しましょう。
 食中毒を予防するために、食事の調理や配膳の担当者は、体調の異変時(発熱、下痢、はきけ、手指のけがなど)には速やかに申告して、交代してもらいましょう。
 咳が出る時は、咳エチケット(マスクをする、ティッシュで口と鼻を覆う)を守りましょう。万が一体調を崩した場合は、迷わず離脱する勇気も大切です。

参考:http://www.cdc.gov/niosh/topics/emres/pe-workers.html
担当:松井亜樹、末廣有希子、河津雄一郎、和田耕治

復旧作業の呼吸用防護具 フィットテスト研究会ビデオ公開

2011319日に開催されました
復旧現場作業者のための呼吸用保護具(防護具)の
適正使用に関する緊急特別セミナーの様子が
Youtubeに掲載されました。


お時間の限られた方は全体のまとめだけでも
ご覧ください。


また、セミナーのまとめや関連情報はこちらでご覧になれます。
復旧作業に従事する人や管理者が知っておきたいほこり(粉じん)・アスベストに関
する7つのポイント
もご覧いただけます。


セミナーの目的:少しずつ復興に向けての作業が始まりつつあります。またすでに現
地に入って様々な作業をされておられると思います。その際、忘れてはならないことは、自分や同僚の健康と安全を守ることです。特にほこり(粉じん)やその他の有害物質を吸い込んでしまうことによるじん肺などの肺の病気の発生を予防する対策が必要です。ニューヨークの2001年の9月11日に発生したテロの後に作業をした方々の肺機能が1年度に急激に低下し、その後回復をしなかったことが米国の権威のある New England Journal of Mecicine に報告されています(N Engl J Med.2010 362(14):1263-72)。また、アスベストの吸引により胸膜中皮腫に罹患するリスクも増えることも知られています。
 本セミナーでは、特に呼吸器(肺)を守りながら作業をするために必要な呼吸用防
護具(マスク、呼吸用保護具)の使用法について最低限知っておきたいことを短時間で紹介します。

<参加することにより>
1.復旧作業に関わる際に必要な呼吸用保護具を理解することができます
2.呼吸用保護具の正しい使用法を理解し、実践する知識を得ることができます

■日時:2011 3 19 日(土曜日)13 時~16
■講師:和田耕治(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)、
    吉川徹、村田克(労働科学研究所)ほかフィットテストインストラクター
■会場:スリーエムヘルスケア() 研修室

主催:フィットテスト研究会 共催:日本産業衛生学会医療従事者のための産業保健
研究会
後援:日本産業衛生学会 協賛:日本保安用品協会、産業医学推進研究会

2011年3月27日

岩手県大船渡市医療支援(3/24-3/27)

岩手県大船渡市の状況
岩手県大船渡市は、海岸沿いは壊滅的な影響を受けましたが、市役所、県立病院は高台にあったので津波の直接的影響はなく基本的なインフラは残っています。しかしながら海岸沿いの建物はほぼ壊滅と甚大な被害を受けています。市内は少しずつ物も増えていますが、コンビニの多くは休んでおり、またガソリンについては緊急車両は問題なく給油できますが、市民にはまだまだ足りない様子です。

避難所での生活
 小学校、中学校の体育館、ふるさとセンターといった公民館的な場所が避難所になっています。日中は人はややまばらですが、夜や食事時になると周囲からも人が集まるようです。避難所においても連日支援が入っており、少しずつ物も増えていますが、避難所の格差が今後の課題です。
治安の悪化まではないですが、暴力や盗難、詐欺のような業者などが潜在的にはあるようで、市や県から注意を呼びかけています
避難所は体育館の場合には気積も大きいので暖まりにくく、外も寒いこともあり夜間は特に寒いようです。暖房は一酸化炭素中毒の問題もあり切っているようですが、なんらかの対処方法が求められます。発電機は回った限りでは外に置くなどの対応はできていました。しかし、避難所はいやだから車で過ごすなどといった人達が一部におりました。

避難所での診療
 訪問時は、自治医大、長野県佐久医師会、徳洲会、岡山県などから医師を含んだチーム、秋田県能代市、倉敷市、沖縄県などからは保健師チームが派遣されていました。各地域を分担して診療や訪問などを行いました。
 市内の開業医の先生も少しずつ開き初めていますが、AMのみなどで、県立大船渡病院などの支援に入っている医師もいるようです。薬局は中心部では開くようになりましたが、そこまで行く手段がないことや、費用が負担できないことが課題となります。歯科医療も戻りつつありますが、同様の課題があります。

北里大学チームは末崎地区の避難所を担当し、午前午後の計4時間診療を行い、1日あたり100人以上の受診がありました。
外来診療で多かったのは、
 1)慢性疾患の処方、高血圧、糖尿病などの処方の希望
2)かぜ
3)花粉症またはハウスダスト、乾燥した空気による鼻水、咳
4)便秘
 5)不眠
の訴えが多かったです。
 3日のうち1名ずつでしたが、釘が足に刺さった、傷が化膿したなどといった人がいました。破傷風の予防接種ができず近日受診を促しました。TIA疑いの方も1名おられました。
 インフルエンザは24日の段階では4名が隔離されていましたが、その後は毎日23名程度抗インフルエンザウイルス薬を処方しました。幸いその後はそれ以上の患者の発生は聞いておりませんが、他の避難所ではインフルエンザの発生が課題になっているようでした。
 水分摂取、便秘、不眠は積極的に確認されると良いかと思います。
 避難所生活も長くなり、ADLが低下するご高齢の方も少なくありません。包括支援センターなども積極的に動いていますが、そうしたご高齢の方を特定し、リハビリにつなげることも求められます。こうした方は避難所だけでなくその近隣で家が壊れなかったところにもおられます。こうした福祉的なサービスを利用することに抵抗を感じる方も少なくないので必要な方にはこちらから参加を促すことも必要でしょう。

津波被災地の状況
津波の水は完全に引いて、復旧作業が終わり、基幹道路、主要なところの電気は戻っています。ただし、自宅までまだ電気もきていない人もいるようです。消防隊や家ごと流された方は日中は自宅跡地に自宅の物を探しにいっているようです。公的な場所は重機が入り作業が行われていますが、一般の人の家となるとしばらく時間はかかりそうです。市内でも津波に被災していない地域では水道、電気などは問題なく使用できます。


今後の課題
 慢性期として、個別の生活の立て直しとして、仮設住宅などへの移動ならびに避難所の中期的な改善をもれなく行うことが求められます。また避難所の統廃合といったことにより生活の質を高めていくことが必要です。ただし、部落の構成など様々な事情もあり時間をかけながら戦略的に行う必要があります。現段階では担当した避難所ではパーティションで個人の区画などが区切れるようにすることも必要でした。
 医療は被災前の体制に戻すことが目標ですが、津波に被災した開業医の復帰も時間がかかります。基幹病院は急性期のみの対応を行っていますが、すでに疲労もたまっており、外部的に慢性疾患の患者の外来をこなす支援は基幹病院またその周辺にはもう数週間単位では必要でしょう。基幹病院の機能をいつまでにどこまで戻すかなどの戦略が必要でしょう。

被災地へ支援に行かれる方へ
 東北自動車道は開通していますが、ガソリンの入手は相変わらず困難です。また食料なども現地での確保はまだまだ難しい地域がありますので十分な準備が必要です。寒さ対策は当然ながら必要です。宿泊施設の確保も容易ではありません。        

最後に派遣に参加させていただき、最大限の支援をいただいた北里大学並びにチームメンバーのすべての方に感謝します。

担当:和田耕治(北里大学医学部公衆衛生)

2011年3月26日

避難所の感染対策 ~ウイルス性胃腸炎編

 避難所のウイルス性胃腸炎で、とくに問題になるのは、ノロウイルスとロタウイルスではないかと思います。双方とも、ヒトへの感染力が強いために、しばしばアウトブレイクを引き起こします。すでに、一部の避難所ではウイルス性胃腸炎の流行がみられるとの情報もあり、今後、対策が急がれることになるかもしれません。

 避難所という集団生活の場において、こうしたウイルス性胃腸炎が流行した場合に、どのような感染対策を行えばよいのでしょうか? 院内感染対策を行ってきた医師の立場、そして新潟県中越地震の被災地支援に関わった立場から、ノロウイルスを中心にして考えてみたいと思います。

 なお、ロタウイルスへの対策もノロウイルスと同様だと考えていただいて結構です。異なる点は、ロタウイルスでは大人の症状は一般に軽いということ、一方、乳児では重症となりやすく、下痢が1週間近く続くこともあります。ですから、ロタウイルスの場合は、より乳児を重点的に守ることになります。

■  ノロウイルス胃腸炎の症状

 突発的な激しい吐気や嘔吐、下痢、腹痛を認めます。やがて寒気とともに38℃台の発熱を認めることもあります。こうした症状は1日か2日で軽快し、後遺症を残すこともありませんが、高齢者や乳幼児では、脱水がすすんで多臓器不全を来たしたり、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息したりすることがあるので注意が必要です。また、高齢者では誤嚥性肺炎を続発することがあるので、下痢がおさまってからも見守りが必要です。つまり、健康な人にとっては、水分を摂取しながら安静にしていれば乗り越えられる病気とも言えますが、災害により体力の低下した弱者にとっては、いのちに関わる感染症となりかねません。

■ 避難所でできる下痢症の治療

 大部分の下痢症患者にとって、必要な治療とは「適切に水分を補給すること」だけです。大人であれば、ポカリスエットなど刺激のないジュースやお茶を飲み、ときどき塩分としてみそ汁や野菜スープなどを飲みましょう。子供(とくに5歳未満児)には「ORS(経口補水塩)」が理想的です。やはりスープなどによる塩分補給も大切です。母乳栄養児には母乳をそのままあげてください。

【ヒント】避難所で作るORS(経口補水塩)
 500mlのペットボトルを準備します。これに塩を小さじ1/4杯と砂糖小さじ3杯を入れて飲料水で満たします(正確である必要はありません)。もし、オレンジジュースがあれば100ml分を水の代わりに入れましょう。飲みやすくなり、下痢で失われがちなカリウムの補充にもなります。

 嘔吐しているからといって、水分を与えるのを諦めてはいけません。少量ずつでもよいので飲ませましょう。脱水もまた嘔吐の原因なので、適切な水分補充ができれば吐かなくなります。

 吐かずに水分が飲めるようになり、食欲が戻ってきたら、食事を徐々に再開しましょう。少しだけ塩を加えたお粥、バナナ、バターを控えたトーストなどが食べやすいようです。

 市販の下痢止め薬は、とくに子供には使わないようにしましょう。大人も避けるべきですが、頻回の下痢で眠れない、避難所のトイレが使いにくいといった事情があるのなら、夜間に限って下痢止め薬を使用することは妨げません。

 一方、市販の吐気止め薬は、添付文書に書かれている用法用量を守って使用することができます。ただ、やはり子供にはなるべく使わない方が安心です。

 本稿では重症者に対する医学的な対応については述べません。嘔吐や下痢とともに意識が朦朧としている、眠ってばかりいる、ぐったりしている、息苦しそうにしている、半日以上おしっこが出ていない、といった症状を認めた場合には、避難所での療養継続は危険かもしれません。必ず医療機関を受診させるようにし、医師の指導に従ってください。

■ ノロウイルスの感染経路

 ノロウイルスは感染している人の腸内で増殖し、その吐物や便を介して感染伝播します。具体的には、感染している人が調理した食品を食べることによる伝播(食中毒)と、感染している人の吐物や便を直接触れてしまうことによる伝播(接触感染)と、吐物や便が乾燥して飛散することによる伝播(空気感染)とに大別されます。ですから、食品の安全を確保することと、症状がある方の便や吐物を確実に処理することが感染拡大防止の目標となります。

 残念ながらエタノールではノロウイルスを消毒することはできません。次亜塩素酸ナトリウム溶液(作り方のヒントを後述)が有効ですが、手指の消毒を含め人体には使えません。よって、ウイルスの除去は流水による手洗いが原則となります。

■  ノロウイルスの感染対策

 では、具体的な感染対策のポイントを整理してゆきます。もちろん、すべての対応をすることは困難だと思います。避難所ごとに状況は異なるでしょうから、現場で判断していただくしかありません。以下を参考として、できることがあれば取り組んでいただければと思います。

1)    食中毒を予防する

○  下痢や嘔気のある方、発熱している方は、避難所における食品の配布や調理に関わらないようにする。漠然と「下痢をしている人は申し出てください」ではなく、食品を取り扱う前に下痢をしていないか、発熱していないか、ひとりひとりに確認するのが望ましい。
○  食品を扱う人は、なるべく石けんを使用し、十分な手洗いをしてから作業に入ること。また、作業の途中にトイレに行った場合にも、必ず手洗いをしてから再開すること。
○  生鮮食品(野菜、果物など)は十分に洗浄し、食材はなるべく加熱調理(85℃以上で少なくとも1分間)する。
○  調理器具、容器は清潔に保つこと。とくに下痢症が流行しているときは、食器の使いまわしは避ける。

2)有症者用トイレを管理する

○  屋内の女性用トイレなどを、性別によらず有症者用のトイレとして限定し、他の人が使用しないように隔離する。
○  流水と石鹸による手洗いを徹底。小便、食事前の手洗い、歯磨きなども、この隔離された有症者用トイレに限定する。嘔吐するのも(可能な限り)このトイレ内でと呼びかける。
○  このトイレは徹底して水洗いによる清掃を続ける(1日2回以上)。ドアノブ、蛇口など直接手が触れる可能性のある場所については、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)を600ppmに薄めた溶液をペーパータオルなどに染み込ませて清拭する。
○  乾燥した便や吐物が飛散しないよう、なるべく湿潤な環境とし、とくに床面を乾燥させない。
○  トイレのドアはなるべく閉めておく。外側の窓は空けてもよいが、空気が屋内に流れている場合には閉めた方がよい。

【ヒント】 600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液の作り方、使い方
 500mlのペットボトルを準備します。ペットボトルのふた1杯(5ml)のハイター(次亜塩素酸ナトリウム6%)をペットボトルにいれて、残りを水で満たしたら600ppmとなります。この溶液を扱うときは、できるだけ手袋をしてください。もし、溶液が手に直接ついてしまった場合には、流水でよく洗ってください。

3)適切に吐物を処理する

○  吐物を認めたら、乾燥する前になるべく早く処理をすること。
○  処理をはじめる前に、処理にあたる人以外の方を遠ざける(3メートル以上)。
○  処理にあたる人は、できるだけ手袋・マスクを着用する。
○  吐物のなかのウイルスを飛ばさないように注意しながら、ペーパータオルなどで静かに拭きとる。
○  吐物で汚染された場所を、600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液でひたすように拭き、その後、水拭きする。
○  使ったぺーパータオルなどはビニール袋に入れ、しっかり閉める。ビニール袋のなかに、廃棄物全体が湿るぐらいに600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液をかけておく。
○  作業が終わったら、流水と石鹸による手洗いをしっかり行う。
○  可能であれば、この作業は、4)で述べる免疫のある方が行う。

4)適切に汚染された衣類を洗う

○  便や吐物で汚れた衣類は大きな感染源となるので、他の衣類と一緒に洗わないこと。
○  洗う人は、できるだけ手袋・マスクを着用する。
○  バケツなどで、汚れた衣類を水洗いし、更に600ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液を半分程度に薄めてように注いで消毒する(ただし色落ちします)。
○  この作業は上述の有症者用のトイレで行うことが望ましい。
○  可能であれば、この作業は、4)で述べる免疫のある方が行う。

5)免疫のある方を活用する

○  下痢など急性胃腸炎を発症し、すでに症状が改善している方は、基礎疾患がある方を除きノロウイルスに免疫があると考えることができる(少なくとも2ヶ月は持続)。
○  避難所の衛生管理における貴重な人的資源であり、有症状者へのケア、トイレを含む避難所内の清掃、リネン類やゴミの取り扱いなどに積極的に協力していただく。
○  下痢がおさまってからも、便中のウイルス排泄は長期に(1週間以上)続くこともあり、流水での手洗いは徹底させる。トイレも有症者用トイレを使用すること。
○  少なくとも症状消失後2週間(できれば1ヶ月)は、避難所の食品の配布や調理に関わらないこと。

6)症状のある方とない方の接触機会を減らす

○  下痢や嘔気などの症状がある方は、どんなに症状が軽くとも、避難所内を歩き回らないように心がける。とくに、テレビのリモコン、ライトのスイッチ、ドアノブ、掲示物などの共有物を触らないようにする。
○  症状のない方は、屋内の男子用トイレや屋外の仮設トイレなど、その他のトイレを使用し、前述の有症者用トイレを使用しないようにする。
○  症状のない方も、症状のある方と同様に、避難所内を不必要に歩き回らないようにする。また、テレビのリモコン、ライトのスイッチ、ドアノブ、掲示物などの共有物を触った場合には、できるだけ流水で手を洗う。
○  症状のある方と会話をしたぐらいでは感染しないので、過剰に排除しないようにする。

■  おわりに

 以上、避難所における感染対策について、比較的厳格な考え方で解説しました。

 さらなる感染対策を試みるならば、上述の有症者用トイレに近いエリアを「有症者世帯エリア」として空間隔離するという方法もあります。つまり、症状のある方のいる世帯を集合させ、それ以外の世帯と分離するということです。避難所内でモザイク状に有症者が寝起きしているよりは、感染拡大の速度を遅くできるかもしれません。

 しかし、感染症医の立場から正直に申し上げると、あらゆる厳格な対策を試みたとしても、拡大の速度は遅くなるにせよ、一緒に寝起きしている限り感染を確実に回避することは困難だと思います。限られた(空間的、物質的)資源を浪費するよりは、乳児など感染させたくないハイリスク者を避難所外へ移動させることを考えた方がよいかもしれません。

 有症者を分けるという感染対策が避難所の団結を阻害したり、有症者を出した世帯に対する偏見を招来することがないよう、避難所の担当者の方は注意してください。避難所において、対策と称して有症者を分離し、そして恐れ、支援の手が疎かになるとすれば、それは明らかな対策の失敗です。ここに書いた私の本意でもありません。

 怒涛の勢いで侵攻してくる病原体を前にして、人間様がバラバラでは勝ち目はありませんよね。団結とは、感染対策における最優先事項でもあるのです。ウイルス性胃腸炎への感染対策は、平時の医療機関においてすら困難なものです。現場の方々は、ほんとうにご苦労されていると思います。ここで私が書いたことが少しでも参考となるとすれば幸いです。

高山義浩(沖縄県立中部病院)

2011年3月21日

医療従事者が知っておきたいメンタルヘルスの総論6つのポイント

1.災害では次のことが一般的に見られます
 1)災害を経験して、影響を受けない人はいません。
 2)災害が起きてしばらくは、人々は力を合わせて働きますが、やがて衰えます。
 3)メンタルヘルスにまつわる問題は、準備期・対応期・回復期それぞれに存在します。
 4)災害によるストレスや悲嘆する反応は、「異常な状況に対する通常の反応」です。
 5)災害時のメンタルヘルス援助は、本来の心理的な関わりよりむしろ実用的なこと(例えば電話を提供したり、コーヒーを配給したり、聞くこと、励ますこと、安心させることなど)になります。

2被災者の感情の推移にはいくつかの段階があります。


英雄期: 人々を守るために、自分を危険にさらしてまでも捜索や救援活動を行う。
ハネムーン期: みんなの利益の為に力を合わせて活動する。
たな卸し期:外部からの情報源にアクセスできるようになり、どこで何が起こったのか全貌が見えてくる
幻滅期: 物資の配給が、あまりにも少なく、遅く、十分でないことに不満がでてくる。
復興期: 人々は自己の利益を越えて動いて、再建を始める。

3ストレスの度合いを決定する要素
1)災害の特徴(回避できたか、突然であったか、影響はどの程度か、どれほど持続するか、制御できるか)
2)コミュニティや社会的要因(コミュニティの資源などの準備状況、被害の範囲や性質、過去の経験知、社会的政治的不安、復興に向けての資源の有用性など)
3)個人の特性(実際の損害や損失における脅威、過去の経験知、ストレスの閾値、ストレス対処方法、利用できる社会的支援の種類と程度)


4. 災害後のストレスは、多くの場合、自らの力で回復します。
一部にはPTSDなどで専門家の治療を必要とすることがありますが、多くの人は一時的に不眠や不安などの症状が見られるものの、自らの力で回復します。支援が必要な人の選別などをし効果的に専門家の支援を行います。


5.生存者は次のような心理的反応を示します。
1)基本的な生存の心配
2)愛する人の喪失やその人の物理的、身体的安全についての恐怖や不安、財産の損失による悲しみ
3)災害による悪夢や想像による睡眠障害
4)避難生活に関する心配や孤立または混雑した生活状況
5)災害に関連した感情や出来事について繰り返し話したい
6)自分が、コミュニティとその復興活動の一員でありたい

6.次のような反応があれば専門家に相談しましょう
1)見当識障害(ぼうっとしている、記憶喪失、最近の出来事を思い出せない等)
2)うつ状態(絶望感の広がりと他からの撤退)
3)不安(絶えずイライラ、落ち着かない、他の災害の強迫恐怖)
4)精神障害(幻聴、幻想、妄想など)
5)自分のことができないこと食べない、入浴しない、着替えない、日常生活を送れない)
6)自殺や他殺の企図
7)アルコールや薬物の問題となる使用
8)家庭内暴力、児童虐待または老人虐待

担当:阪口洋子、末廣有希子、和田耕治

避難所生活改善のために知っておきたい10のポイント~阪神・淡路大震災の教訓より~


1995年の阪神・淡路大震災の報告書より、避難所生活を改善するための教訓を整理しました。

1.仮設住宅や避難所を自らの手で守るための組織を作ります
仮設住宅や避難所における衛生対策や、高齢者、こども達、妊婦のサポートなどを行う組織を住民が主体となって作ります。こうした組織が自然発生的にできない場合も多く、また組織がないと様々な点について課題が生じます。支援に入った団体は、地元自治体の応援も得ながら住民が主体的な組織作りができるように協力します。また仮設住宅や避難などで組織が崩れることがあるので組織の状況を定期的に確認します。

2.トイレの衛生状態を定期的にチェックし、清潔に使用できるようにします
トイレが不潔な状況では、被災者の不満や怒りが増幅します。また、トイレに行くのを我慢するために、飲食、水分を控える人が出ます。さらに、敷地外の公園などの茂みの中に汚物が放置されたり、トイレの中が水浸しになり、その足で各部屋に出入りするなど、避難所では予期しないことが発生します。
・自主的に清掃担当者を決め、定期的に清掃し、仮設トイレの消毒作業をして下さい。
・下痢を起こす感染症の予防のために、排便後・糞便処理後は、十分に手洗いをします。
また、数に余裕があれば小便用と大便用、さらに下痢をしている人のトイレなどを分けることも対策になります。男女分けるのは早期から行うことが望ましいです。トイレは避難所などの組織の鏡とも言えます。トイレの衛生状況をバロメーターとしながら自主的な組織の運営を支援します。

3.食事を適切に管理します
 「次にいつ配食があるか分からない」という不安感や、炊き出しによって確保した食糧を長期間保存する人も出てきます。不衛生な食事は、食中毒の原因となります。
・製造日などを確認します
・製造者名や製造日付などの無い弁当や賞味期限切れのものは配食しません
・配色前には味、臭いなどに異常の無いことを複数の人数で確認します
・食品、特に弁当類は衛生的な場所に保存する、また、直射日光や暖房されている場所での保管はさけ、ネズミ、ゴキブリ等の害を受けない場所に保管します。
・調理器具の洗浄、消毒や使い捨て食器の使用、アルコール消毒液の利用を促します
・保存に適した炊き出しメニューを選定します

4.持病のある方や、乳幼児は、栄養管理を積極的にします
阪神・淡路大震災では、被災2ヶ月後の健康診断で、中性脂肪値の上昇や、貧血、高血圧傾向が確認されました。原因としては、食事のバランスの悪さ、糖質、脂肪、塩分過多、鉄、ビタミン不足等が考えられます。避難所での炊き出しをきっかけとして、栄養改善への意識付けや自発的な食事への取り組みを促します。さらに、栄養士が指導にあたると効果的です。
アレルギー患者へのアレルギー用食品の配布、糖尿病患者への支援、乳幼児栄養相談も行います。食事は生活において極めて重要ですので可能な限りバランスよく充実させることが求められます。
・限られた食料で可能な限り栄養士などの指導を受けバランスを良くします。
・炊き出しをするときには、塩分の量など調理内容に気をつけます。
・食生活への関心を持ち続けることができるように、食事内容に変化を持たせます。

5.飲料水を安全に保管します
・給水を受けたポリタンク等には配給日時を明記します。
・古くなった水は生活用水等に用い、飲用に使用しません。
・飲水にはできるだけペットボトル入りのミネラルウォーターを利用します
・水道管の破裂箇所からの噴出水や湧水等は飲用に用いません。
・井戸水については、水質調査を行ってから使用します(近くの鉱山にあったヒ素などが微量検出された例がある)。

6.定期的に毛布の日干し、通風乾燥、寝具交換をします
避難所での生活が長引くにつれて、敷きっぱなしの毛布等は汚れ、湿気を含み、特に幼児、高齢者には健康への影響が懸念されます。また、阪神大震災の際には、雨天の多くなる5-6月に入るとダニ苦情等が発生しました。
・晴れた日には毛布の日光干しや通風乾燥を行います。
・利用可能であれば、布団乾燥機を用いて定期的に乾燥を行います。
・高齢者にとって重労働である寝具交換などは、積極的に手伝います。

7.飲酒や喫煙のルールを定めます
避難所生活が1ヶ月を過ぎた頃より飲酒が公然となってきたことが報告されています。
・飲酒や喫煙の広がりを予防するために、ルールを定め、避難所の掲示板などで周知し、皆で守るようにします。

8.周辺の環境衛生の維持を行います
気温の上昇にともなってネズミやゴキブリなどが課題となります。
・ゴミを捨てる場所を定め、ネズミやゴキブリが発生しないように管理します。
・定期的に清掃をし、食べ物や残飯などを管理します。
また、このほかに蚊、ムカデ、ナメクジ、アリ、鳩などの害も発生しうるため発生する可能性があれば早めに対応します。

9.結核にも注意します
阪神・淡路大震災では、被災地の一部が結核罹患率の高い地域であったことや避難生活の疲労やストレス等により、結核患者が増加すると予想され、総合的な結核対策が推進されました。また、乳幼児に対する結核予防のためのBCGの予防接種が、優先的に再開されました。結核対策には、予防、早期発見・早期治療が重要です。
・行政が実施する結核対策には積極的に協力します。
・乳幼児に対するツベルクリン反応やBCG予防接種が再開されたら、必ず受診します。
・咳が2週間以上続く、痰がでる(痰に血が混ざる)、体がだるい、微熱が続く時には早めに医師や保健師に相談するよう促します。

10.ペットの扱いにも注意します
阪神大震災時の避難所では、ペットを連れて避難した人もいて、ペットをめぐるトラブルがありました。ペットの問題は災害時の行政施策としての優先度低いですが、放置すると新たな問題が発生します。
・避難所での犬や猫の飼い方についての啓発をします。
・被災動物の保護、治療、相談、一時預かり等の問い合わせ先を紹介します

参考:阪神・淡路大震災 神戸市災害対策本部衛生部の記録
大震災下における公衆衛生活動(大阪大学医学部公衆衛生学教室)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/eqb/book/10-315/index.html
担当:江口尚、和田耕治

津波・地震において自分、家族、同僚、地域の健康を守るヒント集


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避難所のインフルエンザ対策6つのポイント 

 避難所は集団生活の場であり、また体力が弱っている方々が少なくないと思います。今後、避難所などでインフルエンザの集団発生が多発してくる可能性が高いと思われます。なお、被災地の状況は地域ごとに刻々と変化していると思います。あくまでヒントのひとつとして、現場の状況をご確認いただきながら対策いただければと思います。

1)持ち込ませない

 避難所のインフルエンザ対策において、まず大切なことは「ウイルスを持ち込まない」ということです。言うまでもなく、発熱したボランティアはもちろん、いくつもの避難所を巡回するようなボランティアも、不必要に避難所内に入らないことだと思います。避難所の各エリアを個人の家と同じような感覚であつかい、その隔離性を維持することはプライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も有効だろうと私は察します。

2)流行を早めに察知する

 早期発見、早期対応が感染対策の基本です。そこで、避難所のなかで感染症サーベイランスを始めるのがよいかもしれません。具体的には、毎朝、発熱がある人、咳や咽頭痛がある人、下痢をしている人を数え、集計を続けるというものです。これは医療者でなくても可能です。これにより、感染症アウトブレイクを早期に感知し、必要な施策を早めにとることが可能になるかもしれません。

3)環境の整備

 避難所内の換気も必要ですが、病気の方、ご高齢の方に配慮しつつ、寒冷に十分に配慮して実施してください。インフルエンザに関する限り、頻回の換気は不要だと思います。室内の密度にもよりますが、1日2回程度でよいのではないでしょうか? 室内をあまり乾燥させることは、飛沫を飛散させやすくするので好ましくないという分析もあります。

 共用するトイレでの接触感染は考慮すべき問題かもしれません。トイレの後には、できるだけ手指を流水・石けんで洗うよう呼び掛けたいところですが、現状では水が極めて貴重であるかもしれません。支援物資に擦り込み式エタノール剤があるといいですね。これは支援する側が心にとめたいニーズのひとつです。

4)症状のある方への対応

 インフルエンザに限らず、風邪を含む呼吸器疾患が流行している場合には、症状のある方がマスクを着用することを徹底させたいところです。マスクがない場合には、周囲の人と2メートル以上の間隔を空けるか、もしくは衝立を設けて隔離することが感染拡大防止になるでしょう。このような対応がとれるのであれば、必ずしも感染者の個室隔離は不要だと私は思います。

 とくにインフルエンザ様症状の重い方については、関係者は「避難所では診れない」と行政などに強く訴えられた方がよいかと思います。この方面については「がんばらない」ということですね。可能な限り、入院対応を含む避難所外での療養が原則でしょう。これがご本人のためであり、感染対策でもあると思います。

5)ワクチンの接種

 まだ避難所内でインフルエンザが流行していないのであれば、ワクチンの接種は可能であれば今から考えておくべきことかと思います。とくに基礎疾患のある方々については、今からワクチンを接種しておいた方がよいかもしれません。

 しかし、すでに流行が始まっている避難所では、ワクチン接種を開始しても意味がないかもしれません。この場合は、基礎疾患のある方、妊婦、幼児など重症化リスクがある方については、タミフルの予防投与を選択すべきかもしれません。

 すでに厚生労働省は行政備蓄していたタミフルの放出を決定しています。ある程度、タミフルは潤沢になると考えられるので、予防投与についても積極的に選択できると私は考えています。

6)人口密度を減らす

 言うまでもなくインフルエンザは、集団で生活しているような空間で広がりやすいものです。その意味で、避難所の人口密度を減らすことは、もっとも良い被災地の感染対策だと私は思います。いまの状況では、なかなか大変だと思いますが、目指すべき方向性なのかもしれません。私たち被災地外の市民としては、積極的に被災者の疎開を受け入れるよう呼び掛けたいと思います。

担当 沖縄県立中部病院 高山義浩

2011年3月19日

生理が急に始まった時、注意する4つのポイント

 避難所生活のなかで急に生理の出血が始った時には、次の点を確認して対応しましょう。なお、予定外の生理が始まってしまっても、良くあることなので特に心配しなくても良いです。問題になるのは、1)妊娠に関係している場合、2)出血量が多すぎる場合のみです。

1.妊娠だった場合は1週間以内には病院へ
 予定外の出血は妊娠に関連した出血である場合があります。尿の妊娠反応が陽性だった場合には、適切に対処しないと、自分自身の命に関わる場合があります。たとえ避妊していても妊娠することはあります。どんな形でも性交渉があった場合には妊娠を確認しましょう。
 もし妊娠だった場合には、まずその妊娠が「正常な」妊娠かどうかを確認する必要があります。妊娠は特に病院で治療などを行わなくても、ほとんどの場合は問題ありません。しかし、子宮外妊娠の場合には、命を失うことがあります。1週間以内に産婦人科を受診して、超音波で診断してもらいましょう。

 また、流産がとても気になると思います。一般的には、妊娠しても20%程度は残念ながら流産となってしまいます。これは、災害などが無くても変わりありません。流産については、はっきりした治療などもありませんから、赤ちゃんを信じて待つしかありません。また、もし流産になったとしても、それは避けようのないことであり、病院でできる「治療」はほとんどありませんから、その赤ちゃんの運命と言えます。自分を責める必要はありません。

2.出血の量が多い時は病院へ
 生理の出血量は1回に200ml程度(コップ1杯くらい)とされています。合計の出血量が多い場合には止血などが必要になります。合計で500ml以上の出血が続くような場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。非常時に生理用品がない場合には、以下の代用品を検討してください。

3.生理用品について
 赤ちゃんや高齢者用のおむつでも代用可能です。現在のような生理用ナプキンが広まる前は、綿や布を使って対応していました。水分を吸いとってくれる紙や布があれば、一時的にそれで代用できます。布は洗ってあるものであれば、この用途なら充分に使えます。

4.生理用品・ナプキンの作り方
1)長そでTシャツの腕部分を、そで口から20センチほど切る。(わっか状のものが、2個できる)
2)吸水性のあるタオルなどを折り畳み、わっかの中に入れると、ナプキンができる。
3)さらに、ガムテープを、切り口の両側からはみ出るよう出せば、下着に固定も可能。

参考:

太田寛(北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、日本産婦人科学会専門医)

復旧作業に従事する人や管理者が知っておきたいほこり(粉じん)・アスベストに関する7つのポイント

1.復旧作業(インフラなどを従前の機能に回復させるまで)にあたって個人や作業者の健康を守ることが必須です。
2.復旧現場では、ほこり(粉じん)、アスベスト、カビなどが呼吸器(肺や気管など)へ影響を与える可能性があります。そのため粉じん・アスベストに関する基本的知識を個人は学び、組織は必要な情報と呼吸用保護具等の提供を行います。また、必要な対策が継続して行われているかを確認します。
3.復旧の現場における、ほこり(粉じん)にはどのようなものが含まれているかわかりません。アスベストやその他の有害物質を含んでいる可能性がありますので、できる限りほこり(粉じん)を吸い込まないようにします。
4.復旧における作業では防じんマスクDS2以上(N95マスク以上)を推奨します。ただし、説明書などにもとづいた正しい装着(フィットテスト、フィットチェックなど)を行わないと効果が得られません。
5.復旧作業にあたる組織は、防じんマスクDS2以上(N95マスク以上)を確保できるように努力します。また入手が困難な場合は、各自治体などにおいて地震や感染症対策としての備蓄からの放出を依頼しましょう。防じんマスクDS2以上(N95マスク以上)は数に限りがあるためこうした作業へ優先した配分が期待されます。
6.異常なにおいや異変を感じたら、直ちに作業を中断し、退避します。
7.復旧作業における呼吸用保護具の選択例を紹介します。

ばく露リスク保護具作業内容の例
低い不織布製マスク・損壊した家に物をとりに帰る、通常の掃除をする場合
中程度防じんマスク区分2以上(N95以上マスク)
アスベストが明らかな場合は区分3以上
・重機やチェーンソーなどの機械を用いた作業が行われている周辺で作業している場合など。(個人はこうした場所には立ち入らないようにすることが望ましいので、作業する時間を変えることなどが薦められます)
高い全面形取り替え式防じんマスク区分3またはPAPR・損壊建物における重機などを用いた作業(解体)を継続的に行う場合。なお、装着する作業者は使用法について指導を受ける。

PAPR: 電動ファン付き呼吸用保護具


フィットテスト研究会は、医師、看護師、工学の研究者によって組織された呼吸用防護具に関する研究会です。http://www.isl.or.jp/service/fittestinstructor.html


問い合わせ先:吉川徹(労働科学研究所研究部)、和田耕治(北里大学医学部衛生学公衆衛生学講師) 2011年3月19日の緊急セミナーにて提言されました。

被災地の治安を守るために予防すべき4つの暴力

 
食料、水、避難場所の確保といった日常生活上の問題で混乱するとともに、医療機関や警察などの社会インフラに混乱をきたすようになると、治安が悪化する恐れがあります。​​害後の暴力を予防するためには、必要な人への支援提供と、日常生活が円滑に進むような仕組みづくりが必要です。

1.子どもへの暴力
1)子どもへの思いやりを持ち続けてください。子どもは両親の反応に強く影響されます。
2)赤ちゃんが泣きやまないときは、なぜ泣いているかを把握するために、食べ物、おむつの交換、服の着せすぎや薄着のしすぎがないかなどの基本的な欲求が満たされているか、おむつかぶれなど病気や痛いところがないかを調べます。散歩に連れ出すのもいいでしょう。泣きやませるために、肩、腕や足を揺さぶると、けがや死亡につながる恐れがあるので、決してしません。赤ちゃんがたくさん泣くのは当然のことですが、親にとってはストレスになります。無力感や怒りを感じた際には、少し赤ちゃんから離れて時間をとり、穏やかな気持ちを取り戻して赤ちゃんに接します。
3)親は常に、子供が今、どこにだれといるか、把握している必要があります。
4)信頼できる人の助けを得て、あなた自身も休息をとります。
5)家族と離れ離れになっている子どもがいたら、行政の担当者などに知らせてください。
6)虐待や育児放棄を疑った場合には周囲の人は、訪問した医師や保健師や、児童相談所などに相談してください。

2.家庭内での暴力
1)誰かが暴力的になっているのを目撃したら、危険な状態にある人を逃がすなど距離を確保します。もしあなた自身に危険が及ぶおそれがある場合には周りの人などに知らせます。
2)自分が危険な状態にあることを感じたら、友人や家族、診療所などに助けを求めます。 
3)アルコールを飲ませないようにします。
4)住む所や仕事を失うような困難な状況下では、人間関係に大きなストレスを感じるものです。つらいと感じたら十分休息をとったり、心の健康の専門家の面談や電話サービスを活用します。
5)避難所、地域や学校でのボランティア活動に積極的に参加して、他の人との関わりを持つようにします。

3.性的暴力
1)誰かが性的暴力の被害にあっていたら、助け出しましょう。もし自分に危害が及びそうな場合は、警察に助けを求めます。
2)女性は外出する際は、トイレに行く時なども含めて、単独行動は避けます。
3)人がたくさんいる安全な場所にいるようにしましょう。
4)アルコールは不安やストレスをより強くします。また、アルコールを飲む場では性的暴力を受ける可能性もあります。
5)もし自分や周りの人が被害にあったら、親友や家族に話して十分にサポートを受けます。そして警察に連絡することをためらいません。

.若者の暴力
1)他人を尊重し、違いを認めましょう。ストレスや心配事があっても、他の人をいじめたりからかったり悪口を言ったりしてはいけません。
2)清掃など被災地の復旧・復興活動に参加させます。
3)アルコールや薬物(麻薬)を使用する人には近づきません。これらの物質は不安やストレスを高める作用があり、危険な場所に身を置く機会にもつながります。
4)大声で怒鳴ったり、暴力をふるったりせずに、話し合いで解決するようにしましょう。
5)もしだれかが暴力をふるおうと計画しているのを知ったら、狙われている相手と信頼できる人に知らせましょう。もし報復される恐れがあるときは、警察にも連絡します。

担当:松井亜樹、末廣有希子、和田耕治