エボラウイルス感染症の患者(疑いも含む)に対する個人防護具について知っておきたい7つのポイント
フィットテスト研究会(2014年11月20日)
エボラウイルス感染症対策において個人防護具(以下、防護具)は一つの有効な手段です。しかしながら、患者の体液への曝露の機会を減らす、曝露されうる人を管理する(医療従事者の配置、発熱の確認など)をするといった対策を重ね合わせることにより最終的に医療従事者を守ることになります。
2014年11月20日にフィットテスト研究会にて防護具について議論を行い、現場の経験などをもとに、エボラウイルス感染症対策に関わる人が知っておきたいポイントを7つにまとめました。すべてを網羅している訳ではないですが優先度の高いものをできるだけ簡便にまとめました。
なお、ここでは防護具のみについて取り上げましたが、医療従事者を守る取り組みが不可欠であり、院長を含めた管理者と担当者が一丸となって準備、そして対応を行うことが求められます。
【1.適正な防護具の選択と確保】
・防護具には様々な種類とサイズがあります。まずはエボラウイルス感染症対策に適合した規格であるかを確認します。WHOはPersonal protective equipment in the
context of Filovirus disease outbreak responseにて防護具の着用を示しています。
防護具も様々なものがありますが、基準についても以下に示しています。多くの国内のメーカーさんは概ね以下の基準に合致した製品を取り扱っていますが、購入の際には確認してください。
・装着ならびに、試着しての簡単な作業(最低5分程度、できれば1時間)、そして脱着するなどして体型や快適性などを考慮してサイズも複数そろえます。動作によりずれたり、不快感がある場合には遠慮せずに申し出て他の防護具を試します。管理者と本人はどの防護具が個人に合っていたかを記録をとり、在庫も得ます。
・防護具は患者が発生した際に多くの枚数を必要とします。当面の間、エボラウイルス感染症の流行が続く恐れがありますし、今後のためにもある程度の予算を確保して備蓄します。また今後は定期的に備蓄分を用いてトレーニングを行います。
・暑熱対策が課題となりますがクールベストは室内作業であることと、効果にも制限があるため使われることは少ないと考えられます。
【2.防護具の装脱着のトレーニング】
・診療に関わる可能性のある人を対象に防護具の装着と脱着ならびに曝露をできるだけ避ける診療などのトレーニングを開催します。また第一種感染症指定医療機関では採血や吸入などの手技も含めてトレーニングします。
・突発的に疑い患者がどこの医療機関でも来る可能性はあるので患者を入院させる医療機関でなくとも、搬送までの間の対応のトレーニングを行います。また、医療従事者だけでなく、自治体関係者や救急等のエボラウイルス感染症に関わる人も含めます。
・1度だけでなく、複数回トレーニングを行うなどして安心して作業ができる、慣れるといったことが重要です。ある第一種感染症指定医療機関では担当者はセルフトレーニングも含めて5回のトレーニングを行っています。その中で議論も行い、納得の得られるまで共に検討します。
・診療に関わる医療従事者は当然ながら不安を感じるため個別の面談などを行い、不安が強い場合には別の医療従事者を考慮します。
・感染「疑い」の患者への対応、発熱だけの確定患者への対応、嘔吐をしている確定患者への対応など曝露のリスクは異なります。当然ながら、必要とする防護具は異なり、リスクが低ければ防護具を軽減できる場面もあります。どのように軽減するかを判断することは難しく、それぞれの医療機関で議論を行い決めることになります。
・対策が自施設で十分にできない施設では、地域の基幹病院等と連携を行い積極的にトレーニングの場を持つようにします。
装脱着のトレーニングに役立つサイトの例
1)独立行政法人国立国際医療研究センター
2)CDC.
Comprehensive PPE Training
【3.装着の際の留意点】
・装着の手順をわかりやすく掲示し、その通りに行います。最初に必要な防護具を手元にそろえて確認します。
・手順については、独立行政法人国立国際医療研究センター、CDC、WHO(前述)などが示しています。それぞれ若干の違いはありますが、最終的にはそれぞれの医療機関で手順を決める必要があります。試行錯誤して協議することが重要です。
・男性はひげをそります。女性は化粧を控え、髪の毛が顔にかからないようにまとめます。
・装着の際は、必ず感染管理の専門家と1対1の綿密な指導のもと装着します。
・装着すると誰かを特定するのは難しいので職種と名前などを防護具の見えやすいところ(胸や背中)に書きます。
・汚染地域に入る前には必ず感染管理の専門家により皮膚の露出部分がないことなどを確認します。
・脱ぐことを想定してひもなどの結ぶ場所などをわかりやすくします。
・ガムテープで袖口を留めるとはずす際に曝露の可能性があるため行わない。
【4.診療の際の留意点】
・診療においては患者と不必要な接触を避けます。
・防護具を装着しての診療は動きにくく、視野もせまいため普段よりもゆっくりと余裕をもって行います。
・シフトを組み、1から2時間後には防護具を脱着した状態で休憩がとれるような体制が必要です。事前にどのくらいの時間対応するかを決めます。
・職員が感染の不安を感じた場合には直ちに休憩に入れるように配慮します。
・無意識にでも手を顔の近くにもっていかないように集中する、ならびに第3者により管理します。たとえば、汗をぬぐう、おちてきた髪の毛をなおす、ずれたメガネをなおす、かゆいところをかくなどは絶対に行いません。こうしたことを避けるためにも訓練の際には着脱だけではなく診療のシミュレーションも行います。また、不必要な汚染箇所を触れないように手を胸の前で組むなどして待機します。これらは手術室では従来から求められていることでトレーニングにより可能になります。
・防護具を着用すると暑いので空調などで温度管理も行います。暑さや汗で保護具のなかでかゆみが起きたりして無意識にふれる可能性があります。
・手袋を二重に装着すると手が普段よりも動かしにくいため、検体採取時の針刺しなどにも留意します。
・防護具を着用すると患者からの見た目が悪く、不安を助長します。使用の理由や必要性を説明し、不安が軽減されるようにします。
【5.緊急時の対応】
・患者の体液に粘膜や皮膚が曝露された場合には直ちに業務を中止し、その場か離れます。
・曝露を担当者に必ず報告し、対応を検討します。なお、事前に体液への曝露をされた場合の対応を検討します。
・明らかな曝露があった職員については、当面泊まれる場所を院内などに確保することが必要です。
【6.脱着の際の留意点】
・脱着の際に特に曝露される可能性が高いことに留意します。
・脱着も、装着時と同様で手順を提示し、感染管理の専門家の1対1の指導のもと確認しながら脱ぎます。不潔区域と清潔区域のエリアを設け、着衣により環境を汚染しないようにします。ゴミ箱や椅子など脱着に必要な物品は事前にそろえます。
・ゆっくりと清潔か不潔を意識して頻回の手指消毒を行います。汚染されている部位を直接触れないように裏返しながら脱ぎ、ただちに廃棄ボックスに入れます。廃棄ボックスは大きめのものを準備し、こまめに新しいものを持ってきます。
・脱着後に念のためシャワーを浴びれるように配慮します。
【7.廃棄の際に留意点】
・脱着した防護具は速やかにビニール袋に入れ密閉します。その後、感染性医療廃棄物の容器に入れ廃棄業者へ出します。また、院内で非感染性の処理ができれば処理してから業者に出しますが難しい医療機関が多いでしょう。
・廃棄業者の担当者にも不安が生じます。教育やコミュニケーションにより方策を共に考えます。必要に応じて契約も確認します。
本知見は2014年11月20日現在のもので、今後の新たな知見によりさらに改定を行う可能性があります。
問い合わせ先・コメント
和田耕治(kwada-sgy@umin.ac.jp)